研究課題
本研究の目標は、「宇宙可視光背景放射(Cosmic Optical Background; COB)」の世界初検出である。先行研究において最大の障害となっていた、圧倒的に明るい前景放射(主に地球大気による放射と、太陽光の惑星間塵による散乱で生じる黄道光)の精度良い除去が、本研究における最大の課題となる。当該年度には、前景放射除去に向けて新たに画期的な手法を発案し、研究に取り組んだ。その手法は、1970年代にNASAが打ち上げ、すでに太陽系外へと飛び去った惑星探査機パイオニア10/11号のデータ利用である。パイオニア10/11号は火星-木星間を飛行中に、搭載した「測光・偏光測定器(Imaging Photo-polarimeter)によって、継続的に全天の輝度測定を行ったことが知られている。この観測は地球大気および黄道光の放射帯よりも外側で行われているため、前景放射の影響を受けないCOB検出を達成するのに理想的なデータが得られており、現在はNASAのアーカイブに格納されてほぼ忘れ去られていたと言ってよい。そこでこのデータを取得し、最新の解析技術を用いることで、高精度の全天輝度分布図を作成することに成功した。この輝度分布図から、銀河系内の星の寄与を「Tycho-2catalog」および「Hubble Space Telescope GuideStar Catalog II」および星分布モデル「TRILEGAL」を用いて推定・除去し、またInfrared Astronomical SatelliteおよびCosmic Background Explorerという2つの赤外線・電波天文衛星のデータを用いて、星間塵による星の光の散乱光の除去を行った結果、世界初のCOB検出を達成することができた。さらに測定されたCOB輝度をHubble deep fieldの全銀河積分輝度と比較した結果、COBのほとんどの成分はすでに個々の銀河として現在の観測技術で分解されていること、従って「宇宙最初の星(種族III星)」や「弱い拡散放射を行う暗黒物質粒子」などの寄与は、少なくとも可視光波長帯においてはほどんど存在しないことが明らかとなった。この成果は「人類は宇宙の明るさのどれほどを理解したのか」という根源的な問いに関わる重大なものであり、当該年度7月には記者発表を行って、新聞各紙などで本研究結果が広く報道されることとなった。
1: 当初の計画以上に進展している
研究の最終目的であった「COBの世界初検出」については、精度が低いながらもすでに当該年度の研究によって達成された。これは当初計画を大きく上まって進展していると言える。今後はこの結果の高精度化を図ることが課題となる。
すでに達成したCOB検出については、欧米学術誌において論文発表を行っているものの、世界的な周知という点では残念ながらまだ不十分である。まずは多くの国際会議に出席し、結果の発表とそれに対する批評・議論を受けて、周知と改善を同時に行っていく必要がある。さらにより高精度のCOB検出に向けて、当初計画にもあるように、「暗黒星雲遮蔽の利用」という強力なアプローチを用いて研究を進める必要がある。そのために名古屋大学のMOA-II望遠鏡など、広視野撮像装置を搭載した望遠鏡を用いて、観測とそのデータ解析を行っていく。
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Publication of Astronomical Society of Japan
巻: (in press)
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The Astrophysical Journal
Monthly Notices of the Royal Astronomical Society
巻: 412 ページ: 1070-1080
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The Astronomical Journal
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