研究課題
本年度は、引き続きさまざまな宇宙線加速天体の観測・研究を行った。銀河宇宙線の主要源である超新星残骸の観測から、理論面から予測されている通り宇宙線は衝撃波から比較的短いタイムスケールで逃亡し宇宙線になっていく様子、さらにそのエネルギー依存性をを世界で初めてとらえた。超新星残骸だけでなく、銀河宇宙線電子成分の加速源の可能性のあるパルサーやパルサー星雲、白色矮星での宇宙線加速可能性、超高エネルギー宇宙線加速源の主要候補である活動銀河核での宇宙線加速についても議論した。これらの結果を論文で発表、または国際研究会で招待講演した。宇宙線加速のタイムケールが従来の理解より短いとわかってきた現在、さらに若い超新星残骸の観測が必要になってくる。おりしも年度途中に近傍の銀河M82で超新星爆発SN2014Jが発生した。これは40年ぶりに近傍で起こる超新星爆発で、若い超新星爆発・残骸での宇宙線加速の研究に最適である。我々は関連論文を論文発表し、「すざく」衛星での観測を行った。26年度にデータ解析を行い、宇宙線加速の最初の一歩に知見を与える予定である。さらに将来の研究のため、次世代X線天文衛星ASTRO-H及び次世代超高エネルギーガンマ線望遠鏡CTAの開発も続けて行った。ASTRO-Hで観測可能な天体の観測時間の最適化、CTAに使用する光電子増倍管の増幅率のばらつきなどを測定し、それぞれチームメンバーに発表した。
2: おおむね順調に進展している
超新星残骸の研究に関しては、宇宙線が超新星残骸(W28)の衝撃波から逃走していく様を世界で初めて観測し、今までの理論予想を追認する形となった。また、場所による逃走粒子のエネルギースペクトルから、逃走にかかるタイムスケールについてもASTRO-Hで議論できる可能性を示した。これは、ここ数年急激に懸念事項となっていた、「超新星残骸では銀河宇宙線の最高エネルギー(kneeエネルギー)まで加速できないのではないか」という問題に一つの道筋を示すものである。この意味で、本研究は当初の計画以上の進展を見せたといえる。一方で、宇宙線加速天体であるはずの銀河系内のTeVガンマ線未同定天体に関する研究は、X線帯域で多くのつい観測を行ったものの、明確な対応天体が見つからないものがほとんどであり、いまだに正体はつかめていない。対応天体がないこと自体新しい成果ではあるが、その正体解明には引き続き多波長での追観測なとが必要であり、達成度は予定よりやや遅れている。ASTRO-HやCTAの開発についても順調に進展している。申請者が担当しているASTRO-Hのsoft X-ray imagerは、無事コールドプレートにFM CCDを搭載することに成功し、完成に向けて順調に進捗している。CTAに用いられる光電子増倍管の試験も順調に行われ、mass productionに向けた準備が進んでいる。以上の研究状況を総合すると、本研究は当初研究目的に対しておおむね順調に進展しているといえる。
我々の研究から、超新星残骸からは加速された粒子が次々に逃走しつつある様子が発見された。これは、現在観測されている超新星残骸(年齢300年以上)では粒子の最高エネルギーがknee energyより小さいという問題とも合致している。したがって、本当に宇宙線が超新星残骸で加速されているかどうかを検証するには、現在観測されている超新星残骸の外挿・もしくはさらに若い超新星残骸や超新星爆発そのものの研究が必要になる。そこで本年度は、この2点について特に研究を進める。観測されている超新星残骸からのシンクロトロン放射から、宇宙線最高エネルギーを求める。磁場が増幅されているため、宇宙線電子はすでにシンクロトロン冷却によって最高エネルギーが決まっている。このような場合、シンクロトロン放射のカットオフエネルギーは衝撃波速度の2乗に比例する。したがって、衝撃波速度とカットオフエネルギーの相関をとることで、シンクロトロン冷却によって最高エネルギーが決まっているかを判定する。さらに若い超新星残骸へ外挿することで、シンクロトロン冷却が効きはじめるタイムスケールを決定し、超新星残骸で加速していた宇宙線の最高エネルギーを決定する。検出器開発についても引き続き研究を行う。ASTRO-Hは2015年度打ち上げに向け順調に開発が続けられる予定である。衛星の総合試験などに参加し、打ち上げを目指す。また、初期観測の最適化、検出器のキャリブレーションなどを行う。CTAについても観測時間の最適化などを行う。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 3件)
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