本研究課題の目的は、テラヘルツ光による新しい光誘起相転移とそれに伴う巨大な光学非線形変化を模索し、そのダイナミクスを実時間プローブすることである。本年度は研究実施計画に従い、(1)テラヘルツパルスの高強度化、(2)BCS凝縮相における準粒子励起絶縁体-金属相転移ダイナミクスの研究、そして(3)電荷秩序系における絶縁体-金属相転移ダイナミクスの研究を行った。計画(1)については大変大きな成功をおさめ、論文発表時において世界最高強度に匹敵する0.87MV/cmの尖塔値電場強度を実現することに成功した。この非常に強いテラヘルツ電場をカーボンナノチューブに照射することで、残留電子の衝突イオン化によるナノチューブ内の励起子生成に成功した。続いてテラヘルツ-ポンプ・テラヘルツ-プローブ計測系を組み上げ、分子性導体の非平衡相制御をこころみた(計画(2)、(3))。計画(2)については、分子性導体(TMTSF)_2PF_6のスピン密度波(絶縁体)ギャップをプローブとして、テラヘルツ電場照射による絶縁体-金属転移の可能性について模索した。しかしながらサンプルの表面反射によるロスが大きく、当初予想したような巨大なテラヘルツパルス照射効果を観測することは出来なかった。計画(3)については、分子性導体θ-(BEDT-TTF)_2CsZn(SCN)_4の電荷秩序ギャップをプローブとして、同様にテラヘルツ電場照射による絶縁体-金属転移の可能性について模索した。その結果、非常に大きな電荷秩序ギャップスペクトル密度の変化が見られ、明らかにテラヘルツパルス照射による電子相変化が観測された。その緩和時間は数psであり、現在その物理的起源について考察を進めている。
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