本研究課題の目的は、テラヘルツ光による新しい光誘起相転移とそれに伴う巨大な光学非線形変化を模索し、そのダイナミクスを実時間プローブすることである。研究代表者の所属変更に伴い、平成23年度は新規のセットアップを立ち上げ当該研究を推進した。特に新規テラヘルツプローブ技術の創出に力点を置き、全く新しいテラヘルツ偏光計測技術について多数の成果をおさめた。本手法はテラヘルツ波検出に用いる電気光学結晶を高速に回転させ、信号の位相成分から電場の偏光方向を精密に導き出す手法であり、わずか21msという短時間で1度以内の偏光決定精度を得ることができる。更に積算を重ねることで0.01度という微少な偏光角度変化も検出できる。そしてテラヘルツ電場と偏光角度を「振幅」と「位相」の情報として分離計測できるため、光源強度がゆらいでも(この場合は振幅だけが影響を受けるので)、安定した偏光計測を行うことができる。こうした高速かつ精度の高いテラヘルツプローブ手法は、分子性導体物質におけるスピン挙動のダイナミクスを調べる上でも重要であり、テラヘルツポンプ計測と組み合わせた超高速スピンダイナミクス研究への応用が期待できる。これらテラヘルツ偏光プローブについての研究成果は報告書提出日現在、学術論文1報、国際会議発表(予定)1報、国内会議発表3報、特許出願1件にまとめられている。また有機物質におけるテラヘルツ超高速分光の業績が評価され、申請者は「第6回(2012年)日本物理学会若手奨励賞」を受賞した。
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