鉄系超伝導体の超伝導発現機構において、鉄の反強磁性スピンゆらぎが重要な要素の一つであると考えられている。今年度は、Ba1-xKxFe2As2の様々なK濃度において、NMR及びNQRを用いた測定を行い、核スピン-格子緩和時間 (T1) の測定を通して常伝導状態のスピンゆらぎ、超伝導状態におけるギャップ構造について調べた。その結果Ba1-xKxFe2As2のギャップ構造において、NMRによる解析の範囲では、大小2つの振幅をもった超伝導ギャップが存在する事を明らかにした。また、K低濃度領域x = 0.4 からxの値が増加すると小さな超伝導ギャップはフェルミ面の電子ポケットが消失する領域(x~0.7)でほぼゼロへ急激に減少し、K高濃度領域においても大きな超伝導ギャップがxの増加に伴い連続的に減少していることを明らかにした。このことから、この系において超伝導ギャップ対称性の変化はないと指摘できる。さらに、スピンゆらぎの大きさはx の増加によってゆるやかに減少し、Tcのx 依存性と同様の傾向を示す。これらの結果から、Tcとスピンゆらぎの間にはある程度の相関があると結論づけられる。 本研究のもう一つの中心課題である圧力の異方性を考慮に入れた鉄ヒ素系超伝導の圧力効果を詳細に調べるために、改良型の小型キュービックアンビル装置を導入してきた。今年度は、アンビル部分の素材として非磁性絶縁体であるジルコニアアンビルを導入することにより、実際に高温超伝導体のNQR信号を検出することに成功した。このような素材選定や実験はこれまでに試みのなかった成果である。 これらの研究成果について、国内学会で発表を行なうとともに、関連物質の研究成果については国際会議においても発表を行なった。
|