軌道選択モット転移と軌道液体の実験研究

2011 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 22684018
• 研究機関: 名古屋大学
• 研究代表者: 清水 康弘 名古屋大学, 理学研究科, 講師 (00415184)
• キーワード: 強相関電子系 / 金属絶縁体転移 / 軌道秩序 / 核磁気共鳴

研究概要

本研究は、強相関電子系の軌道自由度を微視的に観測し、軌道依存モット転移もしくは軌道液体を実験的に見出すことを目指している。本年度は、幾何学的フラストレーションのあるバナジウム・コバルト酸化物における軌道・スピン状態の解明を行った。特に、三角格子を有するBaV_<10>O_<15>やK_2V_8O_<16>では、金属絶縁体転移における軌道占有率の変化をサイト選択的に観測した。K2V8016では、高圧下の軌道状態の観測に世界で初めて成功するなど、NMR実験技術を進展させる成果をあげた。さらに、軌道縮退のあるV_2O_3においては、軌道依存モット転移の微視的根拠となる高圧下の量子臨界領域でのスピン・軌道ゆらぎを見出した。また、擬一次元的な電子構造をもつVO_2やV_6O_<13>における金属絶縁体転移がパイエルス転移的に軌道秩序を伴う擬一次元鎖をつくることで起こることを突き止めた。コバルト酸化物LaCoO3においては、高スピン-低スピン転移を決定づける軌道秩序の観測に成功し、スピン転移に伴う軌道揺らぎの臨界発散を見出した。これは、約半世紀にわたるスピン転移問題に終止符を打つ成果である。さたに、ハニカム格子を有する擬一次元コバルト酸化物においては、イジングスピンが低温まで秩序化しないことを見出し、スピン-軌道液体の観点から注目を浴びている。これらの微視的研究から、NMRが軌道依存モット転移や軌道液体の解明に重要な役割を果たすことが示さ、今後広範囲の物質への応用へと進展すると期待される。

現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

NMR測定に関する技術的な問題を解決することができ、これまで測定不可能であった磁気活性物質においても軌道状態を調べることができるようになったため。

今後の研究の推進方策

さらなるNMR実験技術の改良によって薄膜・界面・表面での局所的な軌道状態の変化を観測することが課題であり、高分解能の測定技術を柔軟に取り入れていく必要がある。

研究成果

• [雑誌論文] Uncovering the magnetic and non-magnetic phases of a quantum spin liquid (2011)
  • 著者名/発表者名: F.L.Pratt, P.J.Baker, S.J.Blundell, T.Lancaster, S.Ohira-Kawamura, C.Baines, Y.Shimizu, K.Kanoda, I.Watanabe
  • 雑誌名: Nature 巻: 417 ページ: 612-615
  • DOI: 10.1038/nature09910
  • 査読あり
• [雑誌論文] Spin-singlet trimer state induced by competing orbital order in triangular-lattice BaV_<10>O_<15> (2011)
  • 著者名/発表者名: Y.Shimizu, K.Matsudaira, M.Itoh, T.Kajita, T.Katsufuji
  • 雑誌名: Physical Review B 巻: 84 ページ: 064421/1-064421/6
  • DOI: 10.1103/PhysRevB.84.064421
  • 査読あり
• [雑誌論文] Metal-insulator transition in the hollandite K_2V_8O_<16> with a frustrated zigzag ladder probed by ^<51>V NMR (2011)
  • 著者名/発表者名: Y.Shimizu, K.Okai, M.Itoh, M.Isobe, J.Yamaura, T.Yamauchi, Y.Ueda
  • 雑誌名: Physical Review B 巻: 83 ページ: 155111/1-155111/8
  • DOI: 0.1103/PhysRevB.83.155111
  • 査読あり
• [雑誌論文] Anisotropic hyperfine coupling in vanadium oxides (2011)
  • 著者名/発表者名: Y.Shimizu, H.Takeda, M.Tanaka, M.Itoh, S.Niitaka, H.Takagi, Y.Ueda
  • 雑誌名: Journal of Physics : Conference Series 巻: 273 ページ: 012128/1-012128/4
  • DOI: doi:10.1088/1742-6596/273/1/012128
  • 査読あり
• [雑誌論文] Magnetic interactions and orbital state in double chain systems investigated by NMR measurements (2011)
  • 著者名/発表者名: M.Itoh, H.Takeda, Y.Shimizu, H.Sakurai, M.Isobe, Y.Ueda
  • 雑誌名: Journal of Physics : Conference Series 巻: 320 ページ: 012070/1-012070/6
  • DOI: doi:10.1088/1742-6596/320/1/012070
  • 査読あり
• [雑誌論文] Local spin susceptibility in the orbital-frustrated vanadium oxide BaV_<10>O_<15> (2011)
  • 著者名/発表者名: Y.Shimizu, K.Matsudaira, M.Itoh, T.Kajita, T.Katsufuji
  • 雑誌名: Journal of Physics : Conference Series 巻: 320 ページ: 012071/1-012071/6
  • DOI: doi:10.1088/1742-6596/320/1/012071
  • 査読あり
• [学会発表] 有機三角格子モット絶縁体における量子スピン液体状態および超伝導に関する研究 (2012)
  • 著者名/発表者名: 清水康弘
  • 学会等名: 日本物理学会第67回年次大会
  • 発表場所: 関西学院大学
  • 年月日: 2012-03-27
• [学会発表] NMRで見たカルシウムフェライト型クロム酸化物NaCr_2O_4の局所磁性 (2012)
  • 著者名/発表者名: 武田晃, 清水康弘, 伊藤正行, 桜井裕也, 室町英治
  • 学会等名: 日本物理学会第67回年次大会
  • 発表場所: 関西学院大学
  • 年月日: 2012-03-27
• [学会発表] 二元系バナジウム酸化物における金属絶縁体転移とスピン・軌道局所構造 (2012)
  • 著者名/発表者名: 清水康弘, 青山知史, 神野貴明, 伊藤正行, 上田寛
  • 学会等名: 日本物理学会第67回年次大会
  • 発表場所: 関西学院大学
  • 年月日: 2012-03-26
• [学会発表] イジングハニカム格子系Ba_3Co_2O_6(CO_3)_<0.7>におけるスピン液体 (2012)
  • 著者名/発表者名: 五十嵐広和, 清水康弘, 小林義明, 伊藤正行
  • 学会等名: 日本物理学会第67回年次大会
  • 発表場所: 関西学院大学
  • 年月日: 2012-03-25
• [学会発表] 二次元三角格子LiVO_2における軌道秩序と三量体形成 (2012)
  • 著者名/発表者名: 神野貴昭, 清水康弘, 新高誠司, 高木英典, 伊藤正行
  • 学会等名: 日本物理学会第67回年次大会
  • 発表場所: 関西学院大学
  • 年月日: 2012-03-25
• [学会発表] 強磁性クロム酸化物CrO_2およびK_2Cr_8O_<16>における局所磁性と電子状態-^<53>Cr核NMR- (2011)
  • 著者名/発表者名: 武田晃, 清水康弘, 伊藤正行, 礒部正彦, 上田寛, 吉田祥, 村岡祐治, 横谷尚睦
  • 学会等名: 日本物理学会2011年秋季大会
  • 発表場所: 富山大学
  • 年月日: 2011-09-24
• [学会発表] LaCoO_3における軌道秩序とゆらぎ (2011)
  • 著者名/発表者名: 清本康弘, 山田俊平, 下方綾子, 伊藤正行
  • 学会等名: 日本物理学会2011年秋季大会
  • 発表場所: 富山大学
  • 年月日: 2011-09-23
• [学会発表] ハニカム格子を持つ擬一次元イジング系Ba_3Co_2O_6(CO_3)_<0.7>の磁性 (2011)
  • 著者名/発表者名: 五十嵐広和, 清水康弘, 伊藤正行
  • 学会等名: 日本物理学会2011年秋季大会
  • 発表場所: 富山大学
  • 年月日: 2011-09-23
• [学会発表] Na_xCoO_2単結晶のNMR測定 (2011)
  • 著者名/発表者名: 見田直紀, 五十嵐広和, 清水康弘, 伊藤正行
  • 学会等名: 日本物理学会2011年秋季大会
  • 発表場所: 富山大学
  • 年月日: 2011-09-22
• [学会発表] 単結晶^<51>V NMRでみたVO_2の軌道状態 (2011)
  • 著者名/発表者名: 神野貴昭, 清水康弘, 伊藤正行, 上田寛
  • 学会等名: 日本物理学会2011年秋季大会
  • 発表場所: 富山大学
  • 年月日: 2011-09-22
• [学会発表] ^<51>V NMRでみたバナジウム酸化物V_6O_<13>の金属絶縁体転移と軌道状態 (2011)
  • 著者名/発表者名: 青山知史, 清水康弘, 伊藤正行, 上田寛
  • 学会等名: 日本物理学会2011年秋季大会
  • 発表場所: 富山大学
  • 年月日: 2011-09-21
• [学会発表] ^<93>Nb NMRでみた一次元量子イジング系CoNb_2O_6の相転移 (2011)
  • 著者名/発表者名: 五十嵐広和, 清水康弘, 伊藤正行
  • 学会等名: 日本物理学会2011年秋季大会
  • 発表場所: 富山大学
  • 年月日: 2011-09-21
• [学会発表] 3d Electron Quadrupole Moments in Vanadium Oxides (2011)
  • 著者名/発表者名: T.Jinno, S.Aoyama, Y.Shimizu, M.Itoh, Y.Ueda
  • 学会等名: 26th International Conference on Low Temperature Physics
  • 発表場所: 北京国際会議場
  • 年月日: 2011-08-13
• [学会発表] Spin-State Transition in RCoO_3(R=La, Pr, and Nd) : Single-Crystal ^<59>Co NMR Measurements (2011)
  • 著者名/発表者名: A.Shimokata, S.Yamada, Y.Shimizu, M.Itoh
  • 学会等名: 26th International Conference on Low Temperature Physics
  • 発表場所: 北京国際会議場
  • 年月日: 2011-08-12
• [学会発表] Absence of Magnetic Order in Ising Honeycomb-Lattice Ba_3Co_2O_6(CO_3)_<{0.7}> (2011)
  • 著者名/発表者名: K.Igarashi, Y.Shimizu, E.Satomi, Y.Kobayashi, T.Takami, M.Itoh
  • 学会等名: 26th International Conference on Low Temperature Physics
  • 発表場所: 北京国際会議場
  • 年月日: 2011-08-11
• [学会発表] Orbital Ordering and Spin-Singlet Clusters in Triangular-Based Vanadates (2011)
  • 著者名/発表者名: Y.Shimizu, K.Matsudaira, M.Itoh, T.Kajita, M.Ikeda, J.Miyazaki, T.Katsufuji
  • 学会等名: 26th International Conference on Low Temperature Physics
  • 発表場所: 北京国際会議場
  • 年月日: 2011-08-11
• [学会発表] Electronic States of Half-Metallic Chormium Oxides Proved by ^<53>Cr NMR (2011)
  • 著者名/発表者名: H.Takeda, Y.Shimizu, M.Itoh, M.Isobe, Y.Ueda
  • 学会等名: 26th International Conference on Low Temperature Physics
  • 発表場所: 北京国際会議場
  • 年月日: 2011-08-11
• [学会発表] イジングハニカム格子Ba_3CO_2O_6(CO_3)_<0.7>における金属絶縁体転移と磁性 (2011)
  • 著者名/発表者名: 清水康弘
  • 学会等名: 第7回トピカルミーティング「フラストレーションとスピン・電荷・軌道・格子自由度」
  • 発表場所: 彦根ビューホテル
  • 年月日: 2011-07-01
• [備考]
  • URL: http://i-ken.phys.nagoya-u.ac.jp/index_shimizu.html