研究課題
本研究は、強相関電子系の軌道自由度を微視的に観測し、軌道依存モット転移もしくは軌道液体を実験的に見出すことを目指している。本年度は、幾何学的フラストレーションのあるバナジウム・コバルト酸化物における軌道・スピン状態の解明を行った。特に、三角格子を有するBaV_<10>O_<15>やK_2V_8O_<16>では、金属絶縁体転移における軌道占有率の変化をサイト選択的に観測した。K2V8016では、高圧下の軌道状態の観測に世界で初めて成功するなど、NMR実験技術を進展させる成果をあげた。さらに、軌道縮退のあるV_2O_3においては、軌道依存モット転移の微視的根拠となる高圧下の量子臨界領域でのスピン・軌道ゆらぎを見出した。また、擬一次元的な電子構造をもつVO_2やV_6O_<13>における金属絶縁体転移がパイエルス転移的に軌道秩序を伴う擬一次元鎖をつくることで起こることを突き止めた。コバルト酸化物LaCoO3においては、高スピン-低スピン転移を決定づける軌道秩序の観測に成功し、スピン転移に伴う軌道揺らぎの臨界発散を見出した。これは、約半世紀にわたるスピン転移問題に終止符を打つ成果である。さたに、ハニカム格子を有する擬一次元コバルト酸化物においては、イジングスピンが低温まで秩序化しないことを見出し、スピン-軌道液体の観点から注目を浴びている。これらの微視的研究から、NMRが軌道依存モット転移や軌道液体の解明に重要な役割を果たすことが示さ、今後広範囲の物質への応用へと進展すると期待される。
1: 当初の計画以上に進展している
NMR測定に関する技術的な問題を解決することができ、これまで測定不可能であった磁気活性物質においても軌道状態を調べることができるようになったため。
さらなるNMR実験技術の改良によって薄膜・界面・表面での局所的な軌道状態の変化を観測することが課題であり、高分解能の測定技術を柔軟に取り入れていく必要がある。
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