ヘリウム3はp波凝縮たよって超流動状態に転移することが知られている。核スピンが完全に偏極したヘリウム3は、どのような超流動性を示すのだろうか?そもそも、超流動状態として安定に存在しうるのだろうか?本研究の動機は、このような低温物理学における根源的な疑問を解明したいという点にある。そのためにA1相と呼ばれるクーパー対が完全にスピン偏極した超流動の性質を利用して、高偏極超流動ヘリウム3の生成に取り組んだ。ガラスキャピラリーアレイをスーパーリークとしたスピンフィルターセルを作成した。大量の超流動ヘリウム3をスーパーリークを通して、スピン偏極チャンバーに導入するため、液体ヘリウム3の圧力をヒーターでコントロールした圧力トランスデューサーを準備し、金属のダイアフラムを稼動させる構造を作成した。東大物性研究所の強磁場核断熱消磁冷凍機を用いて約2mKの環境で実験を行い、この新しい稼動機構が動作することを確認できた。兵庫県立大においても超低温実験を行う環境づくりのため極低温冷凍機を購入し、建設を進めた。以上の研究結果、計画について、日本物理学会年次大会(2011年3月)講演概要集に掲載した。同年次大会でシンポジウム講演する予定であったが、震災のため中止となった。また、A1相におけるスピン偏極実験についての過去に測定した実験データを整理し、統一的にまとめた論文をPhys.Rev.B誌に発表した。A1相でのスピン緩和の機構は、定性的には、マイノリティースピン理論を考慮すると、広い圧力、磁場範囲で理解されることがわかった。
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