波長が短いX線を利用すると、可視光を用いる光学顕微鏡よりも高い空間分解能を得ることができることから、X線を利用した試料観察法は広く利用されている。ところが、軟X線を利用した場合、軟X線は物質の吸収係数が大きく、イオン化できる十分なエネルギーを持っている。そのため、吸収された軟X線は物質中で熱に変換されたり、イオンや電子を大量に発生させることで試料に損傷を与える。軟X線照射に由来する試料損傷の問題は、生物試料や有機材料の軟X線分光研究において古くから指摘されており、測定データの信頼性に深く関わる重要な問題としてその影響が議論されてきた。本研究では、軟X線照射によって生じる化学状態変化を実時間追跡してその過程を解明することを目指して、時間分解-軟X線顕微分光法を開発する。本年は、その鍵となるサブマイクロメートルの空間分解能を持つ軟X線結像光学系の設計を行った。 本研究では、吸収係数の差を利用した顕微測定を行うため、色収差を持つ光学系は利用できない。そこで、全反射鏡を用いた光学系の検討を行った。ウォルター鏡や非球面鏡などを用いた場合の光学系について、製作難易度や得られる空間分解能の視点から光線追跡法を用いて評価を行った。その結果、2枚の球面鏡ペア(一次元集光)を用いた単純な光学系により、100nm程度の高い集光を得られることが明らかとなった。さらに、この光学系を2組(合計4枚の球面鏡)用いると、目的とするサブマイクロメートルの空間分解能を持つ結像型光学系を構築可能であることも確認された。球面鏡は最も研磨しやすい形状であることから、検討の結果得られた光学系の実現は十分可能であると判断した。次に、4枚の球面鏡の精密位置調整手順について検討を行い、位置調整機構を構成する部品の設計・製作を行った。次年度には、製作した部品を用いて軟X線顕微鏡の組み上げを行い、集光テストを実施する予定である。
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