波長が短いX線を利用すると、可視光を用いる光学顕微鏡よりも高い空間分解能を得ることができるため、X線を利用した試料観察法は広く利用されている。ところが、軟X線は物質の吸収係数が大きく、吸収された軟X線は物質中で熱に変換されたり、イオンや電子を大量に発生させることで試料に損傷を与える。軟X線照射に由来する試料損傷の問題は、生物試料や有機材料の軟X線分光研究において古くから指摘されており、測定データの信頼性に深く関わる重要な問題としてその影響が議論されてきた。本研究では、軟X線照射によって生じる化学状態変化を実時間追跡することを最終目標として、その要となる全反射鏡を用いた結像型軟X線分析鏡の開発を行った。 前年度に製作した球面鏡を軟X線顕微分光装置に組み込み、オフラインにおけるレーザーアライメントを実施した。4枚の球面鏡の位置・角度を正確に調整するため、各球面鏡の前後において光の通過位置を正確に確認するためのモニタの設計・製作を行い、オフラインにおける集光鏡の調整作業手順ならびに位置調整アルゴリズムの確立を行った。結果、レーザーを用いたアライメントによって4枚の球面鏡を精密調整し、設計した集光点に光を導入することが可能となった。 平成23年度に調達予定であった高精度球面鏡は、入札時に発生した障害によって同年度内に調達することができなかった。そのため、本年度に改めて入札による調達を実施し、高精度球面鏡を調達することとなった。最終的に資材調達が遅れた影響によって、放射光を用いた集光・結像テストを実施するには至らなかったが、4枚の球面鏡を用いた軟X線結像型光学系を開発し、レーザーアライメントによって複数枚の集光鏡を用いて収差補正を行う手法を確立することができた。本研究によって、時間分解-軟X線顕微分光装置を展開するための足掛かりを築くことができた。
|