研究課題
種々の誘電体は動的超高圧下で溶融、さらに解離・電離を通じて最終的にプラズマへと転移する。本研究では、固体-プラズマ遷移過程に介在する化学反応素過程や物質状態を理解するため、レーザー動的圧縮法とX線散乱スペクトル計測を用いて、極限環境下での新しい動的超高圧物性計測実験を行う。当該年度には、炭素の高密度安定相であるダイヤモンドをレーザー衝撃圧縮し、1千万気圧(1TPa)を超える極超高圧領域の極限物質状態を生成した。多層膜ターゲットを新たに開発して、過去の実験例に比べて1/10程度のレーザーエネルギーで2TPaもの圧力状態を生成することに成功した。レーザー衝撃波圧縮極超高圧状態量(圧力-密度-温度)の決定は、レーザードップラー速度干渉計(VISAR)と放射温度計(SOP)からなる高速光学計測により行った。この状態にプローブX線を入射して、弾性-非弾性散乱したX線のスペクトルを湾曲結晶分光器によって取得した。光学計測によって得られた密度-温度の状態量を用いて理論的な散乱スペクトルを求め、実験で得られたスペクトルと比較することによって、極超高圧力下の炭素の電離度(~2)を評価した。得られた電離度とイオン間距離及び電子温度を用いて系の結合定数γを評価すると、他の物質系に比べて極めて高いγの値を得た。極限状態の炭素イオンが極めて特異な強結合性を示し、これは初期のダイヤモンド結晶の化学結合の強さに起因していると予想される。この強相関性は独立に得た状態方程式データとも調和的である。密度汎関数法を用いてイオンの動径分布関数を求め、配位数は2と評価された。このことも散乱スペクトル計測から得られた知見と矛盾しない。本研究によって、世界に先駆けて極超高圧下の物質のミクロな描像が明らかになり始めた。
1: 当初の計画以上に進展している
X線散乱スペクトル計測と先進光学計測を同時に用いることにより、極限環境下のミクロな物質の描像が明らかになり、特異な物性が実際に見いだされ始めている。また、コヒーレントな弾性散乱である回折線を同時に取得する試みを開始し、凝縮固体の結晶状態の変化やダイナミクスも議論できるようになりつつある。多様な実験研究に応用可能な新しい試みであり、このことから計画は予定以上に進展していると言える。
今後は、炭素を中心に出発物質の初期状態(構造や密度)を変えて到達するレーザー超高圧状態を変化させ、物質状態と物性の違いをX線散乱計測によって検討する。液体金属状態など、ミクロな物質状態を明らかにする。また、溶融線以下の凝縮固体状態の変化を明らかにするため、X線回折を同時に取得するシステムの確立を行い、遷移過程の包括的な理解を目指す。
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巻: (未定)
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