研究課題/領域番号 |
22684032
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
尾崎 典雅 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70432515)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 超高圧 / ダイヤモンド / X線トムソン散乱 / 動的圧縮 / パワーレーザー / レーザー衝撃圧縮 / コンプトン散乱 / 極限化学反応 |
研究概要 |
種々の誘電体は動的超高圧下で溶融、さらに解離・電離を通じて最終的にプラズマへと転移する。本研究では、固体-プラズマ遷移過程に介在する化学反応素過程や物質状態を理解するため、レーザー動的圧縮法とX線散乱スペクトル計測を用いて、極限環境下での新しい動的超高圧物性計測実験を行う。 当該年度には、ダイヤモンドをレーザー衝撃圧縮下で計測された1千万気圧超、2万度超の物質状態量をもとに第一原理計算を行い、強結合状態の炭素イオンのシステムにおいて部分的に共有性の化学結合が存在していることが明らかとなった。この結果は、独立に明らかとなった結合係数や2対分布関数の振舞いと調和的であった。また、レーザーショックされたダイヤモンドの状態とは異なる圧力温度の炭素のシステムを生成するため、初期密度の異なるグラファイトを試料に用いたレーザー実験を行った。レーザー衝撃波圧縮極超高圧状態量(圧力-密度-温度)の決定は、レーザードップラー速度干渉計と放射温度計からなる高速光学計測により行った。この状態にプローブX線を入射して、弾性-非弾性散乱したX線のスペクトルを湾曲結晶分光器によって取得した。光学計測によって得られた密度-温度の状態量を用いて理論的な散乱スペクトルを求め、実験で得られたスペクトルと比較すると、ダイヤモンドの結果に比べ非弾性散乱項が高く、系の描像が明らかに異なることが示唆された。 さらに、ピコ秒の物質・化学反応ダイナミクスを理解するため、パルス幅数10 fsのX線自由電子レーザーをプローブとして用いたポンププローブ実験を開始した。フェムト秒オプティカルレーザーとX線自由電子レーザーを同期して、角度分解データとエネルギー分解データを同時に取得可能なX線散乱計測実験システムの構築に成功した。レーザー照射後10 ps程度までの電子温度およびイオン温度の時間進展が明らかになってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
X線散乱スペクトル計測と先進光学計測を同時に用いることにより、極限環境下のマクロな系の描像のみならず、ミクロな物質の描像が明らかになってきた。さらにこの実験結果と第一原理計算手法を組み合わせる事で、強結合炭素の状態など、具体的に可視化することができた。 また、コヒーレントな弾性散乱である回折線を利用したX線構造解析を開始し、凝縮固体の結晶状態の変化やダイナミクスが実際に観測されはじめた。ダイヤモンド構造のシリコン結晶におこる一軸ひずみ下の弾性状態から3Dひずみ下の塑性状態への遷移過程がリアルタイムで初めて明らかにされた。 さらには、これまでサブナノ秒の時間分解で行ってきた研究を、ピコ秒ーサブピコ秒の時間スケールで行って、素過程をより詳細に明らかにしていくための実験を開始した。構造と状態量を同時に理解するために、超高速の角度分解散乱とエネルギー分解散乱を同時に行うことに成功した。未踏の時間スケールで物質ダイナミクスを議論するための 新しい試みである。これらのことから計画は予定以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、炭素の液体金属状態など、ミクロな物質状態を詳細に明らかにして成果公表を行っていく。また、X線回折構造解析のシステムを有効に組み合わせて、凝縮固相の物質ダイナミクスの理解にも繋げ、プラズマ-凝縮物質科学の領域拡大に寄与するための基盤を確かなものとする。
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