研究概要 |
本研究課題の目的は、量子論に基づくタンパク内プロトン結合電子移動(PCET)反応機構の解析である。ターゲットは、生体内エネルギー変換を司る巨大膜タンパクであるチトクロム酸化酵素である。このタンパクには3つのプロトン輸送経路(D,H,K経路)があり、どの経路がプロトンポンプを担うのか?は実験的にもまだ論争中であり、定量的で信頼できる理論解析が望まれている。本研究課題で想定している問題は、近年我々が提唱している準量子キュミュラント動力学(QCD)理論に基づくPCET反応解析法の確立、プロトン・電子輸送を伴うチトクロム酸化酵素内での協同的PCET反応の全容解明である。 本年度は、チトクロム酸化酵素のD経路入り口付近でのプロトンの取り込み機構に関する研究を遂行した。D経路の入り口はpH濃度の高い水相から自発的にプロトンを取り込む事が出来る事を示した。また、入り口付近にある2つのアミノ酸残基、アスパラギン酸(D91)とヒスチジン(H503)の間には結晶構造で見られる様に水分子が1分子配置しており、これらが周囲のタンパク質環境場の影響で、プロトンを非局所的に安定化する事が判明した。つまり、この部位はプロトンを長く保持する事を可能としており、一種のプロトンの貯蔵部位である事が示唆される。このようなアスパラギン酸ヒスチジンのペアはタンパク質では良く見られる構造であり、このような構造を持ったアミノ酸部位に置けるプロトンの安定性を、有効静電相互作用モデルを用いて解析した。この研究に関して、論文1報がJournal of Physical Chemistry B誌に掲載された。
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