研究課題/領域番号 |
22685003
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
重田 育照 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (80376483)
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キーワード | PCET反応解析 / チトクロムc酸化酵素 / プロトン移動反応 / 電子移動反応 / 準量子キュミュラント動力学 / Asp-His diad / プロトン輸送 / 第一原理計算 |
研究概要 |
本研究課題の目的は、量子論に基づくタンパク内プロトン結合電:子移動(PCET)反応機構の解析である。ターゲットは、生体内エネルギー変換を司る巨大膜タンパクであるチトクロム酸化酵素である。このタンパクには3つのプロトン輸送経路(D,H,K経路)があり、どの経路がプロトンポンプを担うのか?は実験的にもまだ論争中であり、定量的で信頼できる理論解析が望まれている。本研究課題で想定している問題は、近年我々が提唱している準量子キュミュラント動力学(QCD)理論に基づくPCET反応解析法の確立、プロトン・電子輸送を伴うチトクロム酸化酵素内での'協同的PCET反応の全容解明である。本年度は、チトクロム酸化酵素のD経路入り口付近でのプロトンの取り込み機構に関する研究を遂行した。D経路の入りロはpH濃度の高い水相から自発的にプロトンを取り込む事が出来る事を示した。特に、酸化還元反応に伴い、構造が反転するHis503の役割の解明を目指し、第一原理分子動力学法とメタダイナミクス法を組み合わせた計算手法で、His503回転に関する自由エネルギーを算出した。プロトンが還元反応に伴って取り込まれ、還元状態でAsp-Hisdiadに非局在化していたプロトンが、酸化反応によってAsp9lに局在化するメカニズムを提案した。この研究に関して、論文1報がBiophys.Biochem.Acta誌に掲載された。また、この件に関する国際学会の招待講演が2件と、キュミュラント動力学法に関する招待講演が2件あり、国際的に高い評価を得たといえる。さらに、アミノ酸のpKaを第一原理的に高精度に算出する新たな計算手法を開発し、アミノ酸や小さなタンパク質の側鎖のpKaを予測する事に成功した。この件に関して、Phys.Chem.Chem.Phys.誌に1報掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はチトクロムc酸化酵素のプロトン輸送経路の機能を探るため、第一原理に基づく方法を用いて研究する課題である。プロトン輸送経路は非常に大きいため、本研究では入り口付近と内部の構造・機能相関を個別に取り扱っている。この2年間の研究成果により、入り口付近の重要なアミノ酸残基の機能解明は達成されており、順調に研究が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
現在、D経路内部の解析を同様に進めており、今後2年間はD経路内部に存在する個々のアミノ酸の寄与を明らかにして行く方針である。特に、実験で重要性が指摘されているN98やE242などの残基の効果、また、経路内に存在する水クラスターがプロトン移動のエナジェティクスにどの様に影響を与えているかに着目し、それらの問題を明らかにする。また、生物種間の違いでどのような違いが出るのかに関しても、それらの解析を併せて行う事で、プロトン輸送経路の全容と、生物種間で機能が保持されうるのかどうかと言う問題に切り込んで行く方針である。
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