研究課題/領域番号 |
22685003
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
重田 育照 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (80376483)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 量子動力学 / 電子移動 / 水素移動 / 集団運動 / PCET |
研究概要 |
チトクロム酸化酵素(CcO)におけるO2還元反応とプロトン電気化学ポテンシャル差形成のエネルギー変換効率は7 0%に達すると推定され、高効率なエネルギー変換機構の物理化学的解明は長年にわたって生体エネルギー学分野 における中心的な研究課題である。これまでの所、CcOはバクテリアと牛心筋由来の結晶構造が解かれている。 能動的プロトン輸送の経路に関しては、バクテリアにおいて、その一つのネットワーク(D経路)のアミノ酸残 基をプロトン輸送不可能なものに部位特異的変異によって変換することにより、プロトンポンプ活性がO2還元活 性とともに消失するという事実が示され、D経路はプロトンの供給と能動輸送の2つの機能を有する事が示唆さ れた。バクテリアの呼吸鎖はミトコンドリアのそれによく類似している(バクテリアCcOのアミノ酸シーケンス は牛心筋CcOに対し70%程度の非常に高い相同性を示すことが知られている)。ゆえに牛心筋においてもD経路を 介した輸送が定説となっているのが現状である。 局所的なアミノ酸残基配置とプロトンポンプ機能の関係を明らかにする事を目的として、完全酸化 (Oxidized) ・還元 (Reduced) 状態の各々の構造に対し、D経路入り口付近のプロトン移動経路とそのエナジェティクスを解 析し、機能との相関を考察することを目的としている。 本年度は特に、牛心筋CcOの間の構造の僅かな違いが、経路に沿った 反応のエナジェティクスにどの程度影響を及ぼすのかを、密度汎関数理論に基づく分子動力学シミュレーション を用いて調べ、酸化還元にともなう構造変化がプロトンのくみ上げに寄与することをしめした。また、共同研究 により、金属中心であるCuBサイトのCu2S2構造と電子状態の相関を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はチトクロムc酸化酵素のプロトン輸送経路の機能を探るため、第一原理に基づく方法を用いて研究する課題である。プロトン輸送経路は非常に大きいため、本研究では入り口付近と内部の構造-機能相関を個別に取り扱っている。この3年間の研究成果により、入り口付近の重要なアミノ酸残基の機能解明、ならびに電子移動に関与する補因子CuBサイトの電子状態と構造の相関に関する研究は達成されており、順調に研究が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
現在、D経路内部の解析を同様に進めており、今後2年間はD経路内部に存在する個々のアミノ酸の寄与を明らかにして行く方針である。特に、実験で重要性が指摘されているN98やE242などの残基の効果、また、経路内に存在する水クラスターがプロトン移動のエナジェティクスにどの様に影響を与えているかに着目し、それらの問題を明らかにする。また、生物種間の違いでどのような違いが出るのかに関しても、それらの解析を併せて行う事で、プロトン輸送経路の全容と、生物種間で機能が保持されうるのかどうかと言う問題に切り込んで行く方針である。 また、申請者が提案する量子動力学理論を深化させ、統計力学を包含する理論へと発展させていく方針である。
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