研究概要 |
タンパク内では、合成反応・分解反応・酸化還元反応等々、様々な化学反応が起こり、その精緻な組み合わせにより生命の活動が維持されている。つまり、生命現象の本質はタンパク質が駆動する一連の化学反応であると言える。その反応機構の原子レベルでの解明には、タンパク質の立体構造、特に、化学反応の場(機能中心)を構成するアミノ酸残基や水分子、補因子の空間的配置の決定が不可欠であり、得られた立体構造情報の知見を、これまでの生化学的・分子生物学的方法による機能研究の知見と照らし合わせることにより、タンパク質のもつ立体構造と生物機能との相関の解明が、現代生命科学の最重要課題の一つとなっている。中でもプロトン結合電子移動(PCET)は、生体内のエネルギー変換機構として非常に重要な現象である。本研究課題の目的は、量子論に基づくタンパク内プロトン結合電子移動(PCET)反応機構の解析である。ターゲットは、生体内エネルギー変換を司る巨大膜タンパクであるチトクロム酸化酵素である。このタンパクには3つのプロトン輸送経路(D, H, K経路)があり、どの経路がプロトンポンプを担うのか?は実験的にもまだ論争中であり、定量的で信頼できる理論解析が望まれている。本研究課題で想定している問題は、近年我々が提唱している準量子キュミュラント動力学(QCD)理論に基づくPCET反応解析法の確立、プロトン・電子輸送を伴うチトクロム酸化酵素内での協同的PCET反応の全容解明である。 25年度はキュミュラント動力学を統計力学理論へと拡張し、化学反応経路を探索する方法などの開発を行った。その成果は、Molecular ScienceにReviewとして掲載されている。また、国内外において招待講演などを通して成果発表などを積極的に行った。
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