ケイ素やホウ素などメタロイド元素の二価反応活性種の有機合成的応用に注目し、遷移金属を用いる等価中間体の形成に基づいた新触媒反応の開発と、これによる有機ケイ素化合物や有機ホウ素化合物の革新的合成手法創出を目的として本研究に取り組んでいる。交付申請書研究実施計画に記載した「研究項目1.シリルボランを用いる炭素-酸素結合への触媒的シリレン挿入反応の開発」において、ケイ素上にジエチルアミノ基が置換したシリルボランを用い種々ジエン構造を有する基質との反応を検討したところ、ジエニルリン酸エステルが目的のシリレン挿入反応に適していることを見出した。シクロヘキサジエン誘導体をモデル基質として触媒系を精査したところ、メチルジフェニルホスフィンを有するパラジウム触媒の存在下トルエン中80℃で反応を行うことにより、シリルボランからのパラジウム-シリレン中間体の形成と炭素-酸素結合へのシリレン挿入が効率よく進行することが明らかとなった。生成物のジエニルシランは加水分解を受けやすく不安定であったが、反応後に安定なシリルエーテル構造に変換し単離精製を行う実験手順を確立した。次に「研究項目2.シリルボランを用いるσ結合への触媒的シリレン挿入反応の開発」において、2位にアルケニル基の置換したインドールを基質に用いて検討を行った。その結果、β-スチリル基が置換したインドールとシリルボランのパラジウム触媒反応では、含窒素5員環内の二重結合が関与するシリレンとの[4+1]型環化付加と、生成したシラシクロペンテンのアリル位炭素-水素結合に対するシリレン挿入が連続的に進行し、環化-ジシリル化生成物が収率よく得られることが明らかとなった。このような結合形成は本手法に特徴的であり、シリルボランとパラジウム触媒によるシリレン等価体形成によって初めて実現したことから、今後の触媒設計指針となる重要な成果であると考えられる。
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