研究課題
本研究では、光照射により解裂可能な結合点を有するジブロック共重合体を調製し、ミクロ相分離状態にあるジブロック共重合体に光を照射することで結合点を解裂させ、昇温に伴う界面の揺らぎ(界面張力波)の増大、さらには、ミクロ相分離状態からドメインの合一を経てマクロ相分離に至る過程を明らかにすることを目的とする。今年度は試料として、光照射により解裂可能なオルトニトロベンジル(ONB)基を結合点に有するポリスチレン(S)とポリメタクリル酸メチル(M)からなるジブロック共重合体(S-ONB-M)を合成し、そのバルク膜の相分離構造および紫外光照射と熱処理に伴う構造変化について検討した。分子量が7.0×10^4gmol<-1>、Sの体積分率が0.45のS-ONB-Mを調製し、室温におけるそのバルク膜の構造を小角X線散乱(SAXS)測定および透過電子顕微鏡(TEM)観察により評価したところ、ラメラ構造を形成することが確かめられた。次に、これに紫外光を照射し、続いて両成分のガラス転移温度以上の160℃で熱処理を施してクエンチした試料を作製し、TEM観察を行った。熱処理時間の増加とともに、ラメラ構造のドメイン間隔が増大し、やがてミクロ相分離構造が崩壊する様子が観測された。また、紫外光を照射した試料を160℃で熱処理をしながら時分割SAXS測定を行った。測定開始時には、ラメラ構造由来の一次および二次の整数次ピークが観測されたが、時間の経過につれ、低散乱ベクトル側へのピークのシフトとブロード化が起こり、1.7×10^3秒後には完全に消失した。これらTEM観察と時分割SAXSの結果はよく対応した。ただし、紫外光の到達しにくいバルク膜内部では、ONBの切断が十分に起こっていないことも確認された。今後は、膜厚の小さい試料を作製し、全てのONBが切断された状況で、同様の検討を行う必要がある。
3: やや遅れている
光照射により切断される結合点を持つジブロック共重合体(S-ONB-M)を合成できたこと、光照射と熱処理に伴うミクロ相分離構造の崩壊過程が観測されたことについては、ほぼ予定通りに進展したと考えている。しかし、膜中のONBを完全に切断できていないこと、この現象の物理モデルに基づく定量的な解析に至っていないことが、やや遅れていると判断した理由である。
膜厚が数百マイクロメートルのバルク膜の内部まで紫外光を到達させ、ONB基を切断することが困難なことが確認されたので、来年度の実験では、薄膜試料を中心に研究を推進する。また、予備実験の結果から、S-ONB-M薄膜はミクロドメインが基板に対して完全に平行に配向した相分離構造を得ることは難しいこともわかった。そこで、シリコン基板表面と強い相互作用を有するポリ(4-ビニルピリジン)(4P)をM成分の代わりとして使用し、平行方向に配向したドメインを得る。また、界面張力波を中性子反射率測定により評価するため、重水素化ポリスチレン(dS)を一成分とするdS-ONB-4Pを調製し、構造解析を行っていく。
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (16件)
Macromolecules
巻: 45 ページ: 369-373
10.1021/ma202031w
巻: 44 ページ: 9424-9433