研究概要 |
アラインを利用した合成反応の開発は,その極めて高い反応活性に依拠する斬新な分子骨格構築法を提供し,多様な化合物群を供給する道を拓くため,有機合成化学における重要研究課題の一つである.本研究では特に,アラインの代表的反応特性である求電子性を機軸とした新しい分子変換法を創出し,未踏の有用分子群の直截的合成法として確立することを目的とした.本年度は,アラインへのカルボニル化合物の求核付加で生じる双性イオンを鍵中間体とする芳香族縮合環骨格構築法開発に注力した.カルボニル化合物としてジメチルホルムアミドを用い,アラインへの求核付加,続く分子内環化・開環を経て発生させたオルトキノンメチドが,マロン酸エステル由来のエノラートと[4+2]型の環付加を起こし,芳香族縮合含酸素六員環のクマリンを高効率的に与えることを見つけた.反応にはマロン酸エステルのみならず,種々のフェニル酢酸エステル誘導体やベンジルニトリル誘導体が利用可能で,医農薬や発光性分子などの基幹骨格として極めて重要なクマリンの多様性指向型合成法を確立できた.種々の置換アライン類も本反応に利用可能で,特に三重結合の隣接位に置換基を持つ非対称型アラインの反応では,その位置選択性を完全に制御しながら単一の生成物が得られることも明らかにした. さらに,窒素上にアリール基を有する立体的に嵩高いイミンをアラインと作用させると,形式的[2+2]環化,続く開環を経て形成されるアザキシリレンが二分子目のアラインと[4+2]型の環付加を起こし,アクリダンが生成することも明らかにした.
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