研究課題/領域番号 |
22686001
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
永沼 博 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60434023)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 二重トンネル接合 / 磁気抵抗効果 / ゲート変調 / クーロンブロッケード |
研究概要 |
平成24年度はこれまでに最適化された二重トンネル接合の作製条件をもとに、電子線微細加工装置をもちいてゲート電極を作製し、磁気抵抗を電界制御できる三端子素子の作製の準備を行った。特に注力したのは、電子線描画時の最適条件である。二種類の異なるレジストを積層構造とすることで描画時のレジストの側壁の構造を均質に保つことができることが明らかとなり、結果として100 nmまでゲート幅を狭くすることに成功した。これは、低電圧駆動が可能となるため消費電力を低減する観点からも望ましい成果である。 また、一方、二重トンネル接合の中間層を極薄化することにより微粒子化し、さらに製膜速度を制御することにより微粒子の大きさを制御することを明らかにした。また、全ての層の製膜条件を最適化することにより2004年のF. Ernultらが報告した磁気抵抗比30%の倍の磁気抵抗比60%を得ることに成功した。微粒子化および磁気抵抗比の増大によりクーロンブロッケード現象を観測することに成功し、電流ー電圧特性に明瞭な段を確認することができた。ランジェバン関数により見積もった粒径から段の観測された電圧を見積もったところ、段は粒径を反映していることが明らかとなった。以上述べたように、我々の開発した中間層を極薄化した二重トンネル接合をもちいることにより、クーロンブロッケードによる電流の入出力をゲート電圧で制御できることが示唆された。次年度はクーロンブロッケードが観測された試料にゲート電圧を印加できるように加工する予定にある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二重トンネル接合にゲート変調するための素子構造の作製プロセスの確立に成功しており、巨大な磁気抵抗効果の解明のために必要である電界効果を評価する準備が整ったといえる。しかし、再現性などに多少の難点があるため、微細加工プロセスのさらなる最適化と共に、試料搬送のための予備排気室を設置する必要性があることがわかった。既に平成24年度のうちに、そのための予備実験を試験的に開始している。 一方、巨大な磁気抵抗比を制御するためには二重トンネル接合素子を量子井戸構造にする、もしくは中間層を微粒子化してクーロンブロッケード現象により帯電効果を利用することが必要となる。これまでに、二重トンネル接合に量子井戸を導入する実験を精力的に進めてきた。しかし、再現性良く試料を作製することが困難であり、系統的な実験ができない問題があった。そこで、平成24年度はクーロンブロッケード現象に注力した。製膜条件において、製膜速度を制御することにより粒子の形状および大きさを制御できることがわかった。そこで、クーロンブロッケードが現れる程度まで粒径を低減した。具体的には、10 nmを目標に作製したところ、8.9 nmの平均粒径の微粒子が分散した中間層を作製することができた。本試料をもちいて伝導性を評価したところクーロンブロッケードに起因した明瞭な段を電圧ー電流曲線により観測することに成功した。また、帯電エネルギーを計算したところ40meV程度であることがわかった。従って、量子現象を利用した磁気抵抗素子の作製ができたため、最終年度においてゲートを印加できるよう微細加工を施すことにより本研究課題の目的の1つを達成することができる。このように次年度の研究指針も得ることができており、おおむね順調に研究が進んでいると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
達成度でも述べたが、精度の高い解析を行うためには、素子を高い確率で再現させ、様々な測定を行う必要がある。本研究ではゲート変調素子を作製して、電界効果の観点から磁気抵抗特性を解明する趣旨で研究を行っており、今後は微細加工プロセスのさらなる改良により歩留りの高い素子を作製する計画にある。また、試料の品質は製膜時の環境にも影響を受けるため、予備排気室を新たに設置し、大気中の不純物による酸化の影響を低減させ、高品質の試料作製を行う方針である。 2004年にF. Ernultらによって磁気抵抗素子の中間層を微粒子化してクーロンブロッケード現象を観測した。F. Ernultらは磁気抵抗比30%程度であったが、本課題では製膜条件、特に製膜速度の最適化により磁気抵抗比を60%程度まで増大させることに成功した。この磁気抵抗比の増大により電流ー電圧曲線における段はより明瞭に観測できるようになった。しかし、実用的にはさらに磁気抵抗比を増大させる必要があり、そのためにはMgO障壁の高品質化が必須の課題となる。従って、今後は磁性層だけでなくMgO障壁層の製膜条件の最適化を行う。MgOおよび磁性層はいずれも数nm程度と極薄でX線回折などの手法で結晶性などの構造を調べることは困難である。そこで、今後の研究の推進方策の1つとして、透過型電子顕微鏡による断面構造を詳細に解析する計画にある。 このように、ゲート電圧印加のための微細加工の最適化、MgO障壁層の作製最適化による磁気抵抗比の増大、透過型電子顕微鏡による詳細な構造解析が、今後の研究方策の中心となる。
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