二重トンネル接合の磁気抵抗効果について系統的な調査を行った。磁気抵抗効果は界面でのスピン分極率が大きく影響するため、MgOと電極の間の構造解析に特に注力して研究を進めた。平成26年度の電極材料には従来から進めてきたCoFeBではなくスピン分極率が100%のCoMnSi(CMS)のホイスラー合金をもちいた。ホイスラー合金をもちいることにより、CoFeBではスピン分極率が最大でも80%弱である影響が少なく界面構造のみに集中した検討ができる。試料は高い磁気抵抗比(低温にて1250%の磁気抵抗比が観測されている)が得られた条件で作製した試料をもちいた。CMSと高分解能電子顕微鏡をもちいた界面構造の観察および原子分解の組成分析により、CMSはMgO上にエピタキシャル成長していることがわかったが、Mn組成を広い範囲で調べたところ、MgO障壁層へもMnが拡散していることがわかった。しかし、CoおよびSiは相互拡散している結果は得られなかった。このことから、CoFeB系においてもCoおよびFeは拡散により磁気抵抗比が低下することはないことが推察される。一方、格子ミスフィットを詳細に調べたところ、CoFe系においてもMgOとの僅かな格子不整合によりミスフィット転位が観察されることがわかった。このようなミスフィットは磁気抵抗比を低下させる傾向があることが懸念される。しかし、そのミスフィットの周期性については明瞭な因果関係は認められなかった。以上の構造解析の結果から、磁気抵抗比の低下には原子拡散およびミスフィット転位が影響していることが考えられるが、構成元素により影響は異なることが示唆された。
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