研究課題/領域番号 |
22686004
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
戸川 欣彦 大阪府立大学, 21世紀科学研究機構, 准教授 (00415241)
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キーワード | スピン流 / スピン波 / 磁化ダイナミクス / ローレンツ顕微鏡法 / 強磁性細線 / 磁区 / カイラル磁性体 / カイラル磁気秩序 |
研究概要 |
次世代スピン電子素子において、スピン電気信号の高速変調・増幅・反転作用は必須の機能であり、磁性体を流れるスピン流が励起するスピン波を用いた機能の実現が期待されている。本研究は、透過型電子顕微鏡を用いたその場計測法を駆使し、スピン流が誘起するスピン波の特性を微視的に解明し、スピン流スピン波を用いた磁化ダイナミクスの制御方法を確立することを研究目的とする。本年度は初年度に引き続き、(1)磁気異方性を制御したパーマロイ細線の作製、(2)パーマロイ細線におけるスピン流スピン波特性の微視的解析の研究項目を設定し、研究を進展させた。 初年度の研究により磁気異方性を制御したパーマロイ細線において電流(スピン流)を印加すると磁気縞構造が誘起されることを見出している。スピン流が誘起するスピン波によって励起されるスピン構造が顕在化されて磁気縞ダイナミクスが生じていると解釈される。本年度はこの実験事実を応用し、非局所的電極配置を有する試料構造においてスピン流印加により磁気縞ダイナミクスが生じることを実証することに成功した。この研究成果は、スピン流により誘起されるスピン波の特性を解析し、スピン波運動モードの制御を行う上で、重要な基礎的知見となる。 また、スピン流スピン波の特性を系統的に精査するために、本年度よりカイラル磁性体におけるカイラル磁気秩序の研究に着手した。カイラル磁気秩序はスピン波スペクトルが解析的に与えられる稀有な系であり、理論と実験の両面から詳細な解析を行うことが可能であると期待される。本年度は手始めに、独自に開発している電子顕微鏡解析手法を駆使し、カイラル磁性体においてカイラルらせん秩序とカイラル磁気ソリトン格子が出現することを世界で初めて実証することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は研究計画に沿って順調にスピン流スピン波の特性に関する研究成果を得つつある。また、本年度は設定した研究項目に加えて、スピン流スピン波特性の精査が可能と期待されるカイラル磁気秩序の研究に着手した。その結果、自己開発した新たな実験手法やカイラル磁気秩序の世界初の実証などに関する4本の学術論文、また、19回の学術講演(3回の招待講演を含む)の研究発表を行うなど、想定以上の研究成果を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題推進の最終年度となる次年度は、初年度より継続する研究の更なる進展を図り、スピン流が誘起するスピン波の特性を微視的に解明しスピン流スピン波を用いた磁化ダイナミクスの制御方法を確立するという研究目的の達成を目指す。具体的には、面内垂直磁気異方性を系統的に導入することにより磁気異方性の大きさを制御したパーマロイ細線を作製する。作製する細線において、TEMを用いたその場計測法を用い、スピン流印加下での磁気縞状態の変化を調べ、スピン流スピン波の発生・伝搬・振幅変調特性を解明し、さらに、その制御方法を探る。
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