ダイナミックモードAFMでは、カンチレバーの励振にしばしば圧電素子が用いられるが、液中ではカンチレバーのQ値が低いために、溶液セルの機械振動の誘発や、カンチレバー/ホルダー界面の振動伝達関数の影響から、スプリアス(余計な)ピークが現れる。これにより、カンチレバーの見かけ上のQ値が向上してしまい、周波数変調方式AFM(FM-AFM)において、保存力と散逸力の分離が困難となるだけでなく、それぞれの定量的計測を妨げることが明らかになった。この問題に対し、強度変調レーザ光を用いた光熱励振系を構築することで、液中においてもカンチレバーに理想的な周波数応答特性を持たせることに成功した。 また、従来、真空中や大気中の表面電荷計測法として用いられてきたケルビンプローブ原子間力顕微鏡(KFM)や静電気力顕微鏡(EFM)と同様に、電解質液中において変調電圧を探針-試料間に印加した場合にカンチレバーの各部位に誘起される表面張力・静電気力を解析したところ、探針先端にはたらく相互作用力が非常に小さく、カンチレバーにはたらく力がむしろ支配的になることが示された。したがって、電解質液中でのナノスケール電荷分布計測には従来のKFMやEFMをそのまま利用することはできないが、一方で、3次元フォースマップ法を用いて探針-試料間にはたらく相互作用力の距離依存性(フォースカーブ)を詳細に計測・解析することで、試料表面の電荷密度を推測することができることが分かった。 さらに、探針-試料間に非常に高い周波数の交流電圧を印加し、その振幅をカンチレバーの共振周波数で振幅変調することで、光熱励振と同様にスプリアスピークを発生させることなくカンチレバーを励振する方法も新たに開発した。
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