本研究では、超高感度・広帯域・アレイ性能を兼ね備えたテラヘルツ波検出デバイスとして、超伝導薄膜で吸収したテラヘルツ波を超伝導トンネル接合素子(STJ)で検出するという薄膜マッチング型STJ検出器の開発を進めている。初年度は検出器試作と構成要素(テラヘルツ波吸収膜)の最適化を行った。 具体的にはまず、異なるSTJ素子サイズをもつ検出器を1枚のフォトマスク上に並べて設計・配置し、多結晶Nb吸収膜と多結晶STJ素子からなるプロトタイプ検出器を作製した。素子構造は現在作製プロセスが最も確立しているニオブ系5層膜【Nb/Al/AlOx/Al/Nb】とし、成膜の容易性を重視して各膜厚はサファイア基板上から【200/60/1.5/60/150nm】とした。次に電気特性を評価した結果、素子のノーマル抵抗は0.9Ω、臨界電流密度は50A/cm^2という良好なSIS特性が得られた。その後、超半球レンズ裏面に接着した検出器チップを0.3Kに冷却し光学特性(周波数スペクトル)を評価した結果、現在はまだ大きい接合サイズ(50μmと100μm角)であるが、薄膜マッチング方式によるテラヘルツ光応答を初めて確認した。また、超伝導ニオブのギャップ周波数に対応して0.7THzを境に急峻な感度上昇を実験的に示し、従来型のSTJ検出器に比べても1桁広い帯域幅(約1THz)が得られた。 一方、高いテラヘルツ吸収効率のために超高真空蒸着装置を用いてNb薄膜の条件出しを行った。具体的には、成膜装置内での原料ビーム強度や基板温度に対する依存性を調べた結果、高温加熱により膜平坦性と結晶性を両立する成膜条件が見つかった。また、50nm薄膜の超伝導転移温度はバルクと同じ9.2K、残留抵抗比(300K/10K)は15以上という、従来のスパッタ法による多結晶薄膜に比べても高品質化を達成しており、検出器の本作製を行う準備が整いつつある。
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