研究概要 |
生体吸収性プラスチック複合材料を骨治療材料としてより広範囲に適用するため,強度・剛性の向上が不可欠であり,昨年まではフィラー(リン酸三カルシウム,TCP)とマトリックス(ポリL乳酸,PLLA)間の界面強度向上及び押出鍛造成形による分子配向の制御を試みている.本年度は界面処理により界面強度が向上するメカニズムを明らかにするため,実際に界面上に付着している処理剤であるL乳酸の量を熱重量測定およびpH測定により測定した.さらに,TCP粒子表面のカルシウム原子に付着可能なL乳酸の量を分子軌道計算により求めた.その結果,過度にL乳酸処理をすると,TCP表面に吸着していないL乳酸と母材であるPLLAが結合し,結果的に界面強度が低下することを解析的に明らかとした.また,界面処理に用いたL乳酸の量の最適値は実験結果と解析結果において定量的に良い一致を示した. 分子配向の制御については,押出延伸を施した後にねじり延伸を施すことにより,PLLA円筒試験片に45°方向に傾いた分子配向を付与することに成功している.このねじり延伸を施したのちに作製したPLLAスクリューにおいては延伸方向と同方向へのねじり強度が,ねじり延伸を施さないものと比較して,約1.5倍となることが明らかとなった.ただし,ねじり延伸方向と逆方向のねじりに対しては強度が80%程度となってしまい,きわめて顕著な異方性を付与することが可能となった. また同時に,ゲル浸透クロマトグラフィー装置により,加水分解を受けたPLLAの分子量変化についても調査した.PLLA単体では結晶化した試験片が,また複合材料ではフィラー含有率の高いもののほうが分子量低下が早いことが昨年度の結果から明らかとなっているが,本現象を解析的に明らかとするため,自己触媒効果を導入した分解予測式とFickの拡散則を用いて,水の拡散に伴い変化する試験片内における水分濃度の変化を考慮した分解予測式を構築してきている.その結果,PLLAの結晶・非晶領域およびTCP領域において拡散係数および水分飽和濃度が異なることを考慮しても説明がつかず,PLLA/TCP界面領域を通った水分の拡散を考慮する必要性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた高強度完全生体吸収性プラスチック複合材料の開発と擬似生態環境課における分解予測モデリング法の開発という目的に対して,分子配向の制御により,実用上もっとも必要とされるねじり強度を50%程度向上させることに成功しており,また,自己触媒効果を用いた分解特性のモデル化にも成功しているため.
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今後の研究の推進方策 |
対象としているポリ乳酸のガラス転移温度よりもわずかに上の温度域において負荷を制御することにより,所望の任にの方向に対する分子配向を制御する手法を開発し,疾患の程度・部位に応じた力学的特性を有する複合材料の製作を可能とする.さらに,これまで開発してきた分解モデルと損傷力学解析を組み合わせることにより,分解に伴う力学的特性の変化を予測する手法を開発する.
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