研究概要 |
本年度は,燃料電池電極のナノ・マイクロ多孔場における構造形成の支配因子についての研究開発を行った.特に,材料合成・デバイス化プロセスに着目して,物質輸送パス(イオンチャンネルや空隙構造)の形成過程について物質輸送学的な考察を行った.具体的には,顕微ラマンによる触媒層アイオノマー中の水分計測について検討を行った.加えて,燃料電池ナノ・マイクロ多孔場形成時におけるプレス圧力が多孔質構造(空隙率,細孔分布など)と電池性能に及ぼす影響の基礎的解明を行った.ホットプレス圧力を0.5,2,5,10MPaとして形成した燃料電池電極触媒層について,窒素吸着測定による多孔質構造評価を行った.その結果,高プレス圧領域(5,10MPa)では,一次孔にはほとんど影響がみられないが,二次孔が選択的に減少することが明らかになった.さらに,SEM画像から求めた空隙率(幾何学的空隙率)より窒素ガス吸着計測から求めた空隙率(有効空隙率)が減少したことから,プレス圧の増大はガス輸送に寄与しない独立細孔を増大させることが示された.このとき,燃料電池性能との相関を調べたところ,高電流密度域で物質輸送抵抗の増大にともなう性能低下が顕著であることが明らかになった.一方で,2MPaまでの低プレス圧条件では,発電性能が向上した.これは,細孔構造はほとんど変化しない一方で,アイオノマーやカーボンのネットワーク接続性および膜・電極接合界面における接触抵抗が改善されたことが要因であることが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
燃料電池ナノ・マイクロ多孔場における,反応ガス(水素,酸素),生成水,電子,イオン(プロトン)の輸送現象の基礎的解明に向けて,多孔場形成の支配因子の基礎的解明と輸送現象および電池性能との相関について明らかになってきており,着実に進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
燃料電池ナノ・マイクロ多孔場の構造形成因子と電池性能の相関について一層に理解を深め,多孔場形成過程の「その場」計測を行うことで,燃料電池ナノ・マイクロ多孔場における,反応ガス(水素,酸素),生成水,電子,イオン(プロトン)の輸送現象の基礎的解明につなげていく.
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