シリサイド半導体β-FeSi2は、近赤外の波長領域で受・発光機能を示す新規シリコン光エレクトロニクス材料と位置づけられる。本研究では、能動的にひずみを導入しβ-FeSi2のバンド構造を制御することで、受・発光機能の高機能化を目的としている。今年度の当初計画では、β-Fe(Si1-xGex)2/Siひずみ超格子を作製し、ひずみの能動的制御を目指した。その研究過程においてGe添加によるひずみ効果を検証するための新たな研究課題を見出し、下記の研究成果を得た。 ・β-FeSi2/Siヘテロ界面におけるひずみの成長方位依存性の検証 β-FeSi2/Siヘテロ界面で発生するひずみは、Si基板上のβ-FeSi2のエピタキシャル方位によって異なる。このひずみの成長方位依存性をラマンスペクトル測定および第一原理計算により検証した結果、SiGe(111)上のβ-FeSi2(110)(101)エピタキシャルにおいて最も異方性ひずみが導入でき、バンド構造のひずみ制御に適することを見出した。 ・β-FeSi2エピタキシャル膜における表面フェルミ準位の評価 β-FeSi2のバンド構造は鉄のd軌道が支配的であるため、SiやGaAsと比較して光学特性が表面に大きく依存すると考えられる。これまで作製したひずみ導入試料の光学特性も、β-FeSi2の表面状態に依存していた。しかし、β-FeSi2の表面フェルミ準位の報告例はなく、その評価は光学デバイスの開発に必要不可欠であった。そこで、変調分光法によりFranz-Keldysh Oscillationをβ-FeSi2ではじめて観測することに成功し、表面フェルミ準位の評価を行った。その結果、β-FeSi2の表面状態密度が極めて大きいことを明らかにした。
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