研究概要 |
複数ひび割れ型セメント系複合材料(HPFRCC)の一種であるEngineered Cementitious Composite(ECC)の主応力軸回転下において性能低下を示す特異点を解消する材料を開発することを目的に,剛性の高い鋼繊維と骨材を混入することでひび割れ面でのせん断性能を向上させることの効果を確認する実験を行った。実験には研究者のグループで考案した,試験体に初期損傷を与えた後に主応力軸を回転し,その材料力学性能を確認する試験法を用い,通常のECCに鋼繊維を体積比で0~2.0%,または骨材を0~20%まで混入した際の引張,せん断性能とひび割れ性状の変化を確認した。また,実用化を念頭に施工性の確認もあわせて行った。 初期損傷を与えた上で主応力軸を回転させた試験を実施し,荷重変位関係と損傷なしの試験から得られた性能との比を取り,耐力と変形能を評価すると共に,計測したひずみからひび割れ面上のせん断性能を確認した。これらの整理から,耐力は鋼繊維や骨材を混入することで向上することがわかり,変形能は混入率0.5%までは低下を示すが,それ以上の混入比率では混入なしの場合と同程度まで回復した。また,主応力軸回転に伴い発生する第二ひび割れの角度は鋼繊維または骨材の混入により10°程度で安定した。このことから,鋼繊維や骨材の混入により,初期ひび割れ面のせん断性能を向上させ,第二ひび割れ方向を主応力軸に沿ったものへと制御することに成功したことを確認した。以上の力学性能と,スランプフロー試験から得られた施工性能から総合的に性能を評価すると,本研究で得られた結果の範囲内では適切な混入比率は鋼繊維では1.0~1.5%,骨材では10%程度であると判断した。
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