研究概要 |
本研究は,全世界で多大な被害を出しているノロウイルスに関し,その水環境中動態に大きな影響を与えると考えられるノロウイルス吸着性ヒト腸内細菌に着目し,その存在の証明と吸着部位の同定を行うことを第一の目的としている.平成22年度(研究初年度)においては,まずヒト糞便及び未処理下水中からノロウイルス吸着性ヒト腸内細菌の分離を試みた.ノロウイルスの吸着部位となる可能性の高い組織血液型決定抗原(Histo-blood group antigen : HBGA)様多糖を細胞表層に有する菌体を選択的に分離するため,抗HBGA抗体を固定化したプレート上にヒト糞便もしくは未処理下水を塗布し,プレート表面をよく洗浄した後,腸内細菌用培養液を滴下し微好気培養を行った.菌の増殖を確認後,寒天培地上で画線培養してコロニーを形成させ,各コロニーを液体培地に移して増菌した.その後,得られた菌体がHBGA用組織を有していることを血液型決定キットで確認し16srRNAを解析したところ,Pseudomonas sp., Klebsiella pneumoniae,及びProteus mirabilisに近縁な株がHBGA陽性株として得られた.得られたHBGA陽性株を用いてノロウイルス粒子(GII.4)との吸着実験を行ったところ,見掛けの吸着平衡定数は10^<13>M^<-1>程度であり,株間に大きな差異は見受けられなかったから,どの菌株も同様な抗原を有していることが示唆された.1菌体当たりの吸着サイトは,HBGA陰性菌体として用いたE.coliK12と比べ,Pseudomonas sp.近縁株は25.6倍,Klebsiella pneumoniae近縁株は1.8倍,Proteus mirabili近縁株は1.6倍あった.来年度は,得られた菌株から細胞外多糖の抽出を行い,ノロウイルス粒子との相互作用の強さをより詳細に解析する予定である.
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