金属材料の構造寿命を予測するモデルを構築するためには、その構造的ウィークポイントである結晶粒界や異相界面における破壊の臨界条件について、正確な情報が必要不可欠である。こうした界面における破壊の臨界条件(剥離強度)は、近年第一原理計算を用いて定量的に議論されるようになったが、その計算結果の妥当性を検証するための実験結果は未だ提示されていない。これは、マクロスケールの実験で測定可能な界面剥離強度と、原子スケールの第一原理計算で導出可能な界面剥離強度とが、根本的に異なるためである。マクロな実験では、界面が剥離する前に転位がそこにパイルアップして局所的な応力集中が起こり、その応力集中した箇所を起点にして破断が起こる。それに対し、第一原理計算で計算可能な剥離強度とは、ローカルな応力集中が一切ない理想的な状況で導かれる値である。本研究の目的は、こうした転位による応力集中の影響を完全に排除した界面剥離強度の理想値を、実験で直接測定するための手法を開発することである。 今年度はまず、転位フリーのバイクリスタル試験片を作成し、それを電子顕微鏡の中でマニピュレーターを使って引張り破断し、粒界の剥離強度を機械的に測定する実験に取り組んだ。転位フリーの試料において、転位が新たに核発生するのに必要な臨界応力は剛性率の0.036~0.074倍である。第一原理計算によれば、粒界に不純物が偏析している場合、その剥離強度は最大10分の1程度(剛性率の約0.026倍)まで低下しうることが示されている。したがって、転位フリーのバイクリスタル試験片の粒界に不純物を偏析させれば、転位が発生する前に粒界剥離が起こるど期待できる。試料を転位フリーにするために、試料サイズをサブミクロンオーダー(直径<100nm)までダウンサイジングした。自由表面からの距離く50nmの領域では、鏡像力によって転位が掃き出されるため、転位フリーの状態が実現する。
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