研究課題/領域番号 |
22686059
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
溝口 照康 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (70422334)
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キーワード | EELS / 材料設計 / 原子・電子構造 / 電子顕微鏡 / その場観察 / 第一原理計算 / セラミックス / 無機材料・物性 |
研究概要 |
平成23年度においては(1)高精度EELS計算法の開発,(2)その場観察において導入される格子不整合領域のEELSプロファイルへの影響,(3)先進材料の構造決定に関する取り組みを行った.それぞれの研究成果について以下にまとめる. (1)理論計算法に関して,独自開発した相対論多電子計算法を用いて遷移金属酸化物のホワイトラインEELSを系統的に計算し,遷移金属-酸素間のCharge transferを考慮することによりホワイトラインEELSを定量的に計算できることが分かった(PRB 2011).同手法をLiイオン電池材料に適用し,Li脱離・挿入に伴うスペクトル変化を定量的に理解した(J. Chem. Phys. C 2011). (2)格子不整合領域におけるEELSに関して,その場破壊等で導入される積層欠陥や界面の影響を調べ,それらが導入されることによるEELS変化を明らかにした(Micron 2012).さらに,高温真空熱処理に導入される酸素空孔のEELSへの影響も調べ,ホワイトラインEELSを用いることにより約1%の精度で検出可能であることが明らかになった. (3)SrTiO3粒界や超格子薄膜などの先進材料に関して,その格子不整合領域の構造解析を行った.その結果,界面点欠陥形成の粒界性格依存性を明らかにすた(PRB2011).また,本研究で酸化物の「非対称粒界」の構造決定に世界で初めて成功した(PRB2011).また,超格子薄膜中ヘテロ界面のSTEM-EELS測定および理論計算を行うことにより,界面相互拡散ダイナミクスのメカニズムを明らかにし,制御因子を抽出することに成功した(APL 2011,Adv. Func. Mater. 2011). 今後はこれら実験・計算手法をさらに高度化して行く予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では機能性材料の原子・電子構造の変化を時間分解能で追跡する手法を確立するとともに得られる実験EELSスペクトルデータを定量的に解釈する手法を確立することを目的としている.2011年度においては特にEELSスペクトルで得られる情報の定量性に関する研究を行い,原子構造だけではなく電子構造や欠陥構造を定量的に解析するための手法を確立することに成功した.以上から本研究はおおむね順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
今後は同手法を実際の材料に適用していく予定である.現在までにイオン液体,Liイオン電池電解質,強相関化合物を用いた実験は行っている.例えばイオン液体内部で化学反応を行うことにより,化学反応における電子の授受を時間分解で追跡できることが期待される.一方で,液体のEELSが,固体のEELSと大きく異なっているということが分かりつつある.このことから液体を用いた実験に加え,液体EELSの理論計算についての研究も行う必要があると考えている.今後はこれまでの第一原理計算に加え,分子動力学計算も取り入れて研究を行っていく予定である.
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