1.低合金鋼におけるマルテンサイト逆変態発現条件の調査 実際の組織制御プロセスでは、ラスオーステナイトを室温まで安定に存在させる必要はなく、逆変態の際にマルテンサイト逆変態が発現すれば良い。そこで、実用的な低合金鋼としてFe-5Mn-0.15C合金を用い、様々な昇温速度(1~100℃/s)で加熱した際の逆変態挙動について熱膨張試験を中心に調査した。その結果、加過熱現象によって逆変態温度が昇温速度に依存して連続的に変化するのに対して、極めて高い昇温速度の場合には、逆変態点がその連続性から外れることが確認された。これは、昇温途中で生じる逆変態が拡散変態から無拡散変態へ遷移したことを意味するものであり、低合金鋼においても特定の条件下でマルテンサイト逆変態が発現することが示唆きれた。 2.ラスオーステナイトからの各種相変態挙動と変態生成物の特性調査ならびにその有用性の検討 上記実験1.を基に、マルテンサイト逆変態が生じると思われる昇温速度にて過熱を行い、さらに水冷することで得られたマルテンサイト鋼について、その特徴を調査した。その結果、マルテンサイト逆変態の有無により硬度ならびに転位密度が若干上昇することが確認され、ラスオーステナイトを初期組織とすることでマルテンサイト鋼の機械的特性の向上が示された。以上の結果より、ラスオーステナイトからの各種相変態挙動(フェライト変態、ベイナイト変態など)についても同様の効果が期待される。
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