研究概要 |
本研究課題は,潮解性がなく,bcc系強磁性金属やホイスラー合金といった合金と格子不整合が小さいという長所を持つ,強磁性トンネル接合(MTJ)用の新規トンネルバリア材料:スピネルMgAl_2O_4超薄バリアの作製技術開発を通し,巨大なトンネル磁気抵抗(TMR)を得ることを目的としている。本年度は,強磁性電極にbcc構造のFe(001)を用いたFe/MgAl_2O_4/Fe構造の作製を通し,エピタキシャルMgAl_2O_4バリアの作製法の確立と,MgAl_2O_4バリアのもつポテンシャルを明らかにする研究を行った。今までは,Mg/Alの2層膜をプラズマ酸化することでMgAl_2O_4層を得ていたが,今年度はMg-Al合金ターゲットからスパッタ成膜したMgAl合金(マグナリウム)薄膜をプラズマ酸化するという作製法を見いだした。この方法によって,より均一なバリア層の作製が可能になり,そのバリア層は,今までと同じようにエピタキシャル成長することが電子顕微鏡像から示された。また,Fe電極との界面の格子不整合を0.5%と非常に小さくすることが可能であることを示した。さらに,CoFe電極を用いたCoFe/MgAl_2O_4/CoFe構造を採用することで,室温で256%,低温(15K)で365%の巨大なTMR比を得ることに成功した。この値は,これまでの作製法によるFe/MgAl_2O_4/Feの値,室温117%,低温165%から大きく進歩している。特に,この高いTMR比は,MTJ用に広く用いられている材料であるMgOを用いたMTJの値に匹敵しており,MgAl_2O_4はMgOに続くコヒーレント効果によるTMR増大を示す「第2のバリア材料」であるといえる。さらに,酸化前のマグナリウムのMg・Al組成を調整することでMgAl_2O_4バリアの格子定数を調整可能であるため,強磁性電極材料(たとえばホイスラー合金Co_2FeAl,Co_2FeSi)に合わせて最適な組成を選択可能になり,「完全格子整合」MTJ作製に道筋がたてられたといえる。したがって,MgAl_2O_4は電極材料の選択性が高く,高いTMR特性を実現可能なため,MTJへの応用だけではなく,新規スピントロニクスデバイスへの展開も期待できる。
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