研究概要 |
本研究課題は,潮解性がなく,bcc系強磁性金属やホイスラー合金といった合金と格子不整合が小さいという長所を持つ,強磁性トンネル接合(MTJ)用の新規トンネルバリア材料:スピネルMgAl2O4超薄バリアの作製技術開発を通し,巨大なトンネル磁気抵抗(TMR)を得ることを目的としている。本年度は,強磁性電極にbcc構造のFe(001)を用いたFe/MgAl204/Fe構造の作製を通し,エピタキシャルMgAl204バリアの作製法の確立と,MgAl204バリアのもつポテンシャルを明らかにする研究を進展させた。Mg-Al合金ターゲットからスパッタ成膜したMgAl合金(マグナリウム)薄膜をプラズマ酸化する方法に加え,酸素ガスの真空装置への導入による自然酸化法を用いた。この方法によって,応用上重要な,非常に低抵抗なトンネルバリアを達成した。また,Mg-Al組成の調整によって,幅広い組成範囲でMg-Al-O薄膜を立方晶で作製可能であることを示した。これによって,バリア層の格子定数の調整が可能になり,電極との界面の格子不整合をほぼゼロである完全格子整合接合を達成できた。さらに,CoFe電極を用いたCoFe/MgAl204/CoFe構造により室温300%を超える巨大なTMR比を得ることに成功した。特に,この高いTMR比は,MTJ用に広く用いられている材料であるMgOを用いたMTJの値に匹敵しており,MgAl204はMgOに続くコヒーレント効果によるTMR増大を示す「第2のバリア材料」であるといえる。さらに,東北大学との共同研究の結果として,理論計算によって高TMRが実現することを示すことにも成功し,実験,理論の両面からMg-Al-Oバリアの高いポテンシャルを確かめることに成功した。したがって,MgAl204は電極材料の選択性が高く,MTJへの応用だけではなく,新規スピントロニクスデバイスへの展開も期待できる。本年度はさらに高いTMR実現のために,高いスピン分極率を有する強磁性体,Co2FeAlホイスラー合金に関する知見も多く得られ,今後さらに高TMRが実現可能になることが期待できる。
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