工業製品や化粧品などに利用されているナノ粒子の生体影響(ナノリスク)が、社会的に問題視されつつある。本研究では、無機酸化物ナノ粒子と培養細胞を用いて単一粒子・単一細胞レベルの基礎的かつ系統的な実験を行い、ナノ粒子の「サイズ、表面特性」が「細胞への付着・脱着、摂取・排出、毒性」にどのように影響するかを、コロイド科学と細胞生物学の双方の視点から検討した。具体的には、無機酸化物ナノ粒子のモデル粒子として、現在産業的に大量に使用されているシリカ粒子を用いた。接着性動物細胞(B16F10)、浮遊性動物細胞(Jurkat)、赤血球に対して、様々な条件のもとでシリカ粒子を曝露し、シリカ粒子が細胞膜の損傷に与える影響について検討した。その結果、以下の3点が明らかとなった。 1)細胞種に依らず、シリカ粒子由来の細胞膜損傷性は、粒子の総表面積が大きいほど高くなった。この結果から、膜損傷性はシラノール基数に依存すると考えられる。 2)細胞種に依らず、膜損傷性は、曝露温度(4~37℃)が高いほど高くなった。この結果から、膜損傷性は膜流動性や膜弾性に依存していると考えられる。 3)細胞種に依らず、粒子が懸濁されている培養溶液への血清の添加により、膜損傷性が低くなった。様々な血清濃度における粒子の流体力学的直径などの測定結果から、血清による膜損傷性の低減は、血清が粒子を被覆することで細胞との相互作用を低減することに由来すると考えられる。 4)無修飾のシリカ粒子の場合と異なり、化学的に表面修飾されたシリカ粒子の細胞毒性(溶血性)は、細胞種に依存した。 以上の結果により、シリカ粒子由来の膜損傷性は粒子表面と細胞膜表面による相互作用によって発現している可能性を示した。
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