本研究では、他の大陸に見られない一斉結実が見られる東南アジア熱帯林で、オランウータンなどの大型動物が、果実生産の季節性に対して、どのように反応しているのかを明らかにし、結実の季節性に対する反応の違いが、異種の共存に貢献しているという仮説を検証することが目的である。 本年度は、キナバタンガン下流生物サンクチュアリで、一昨年度開始した、カメラトラップによる大型動物密度の季節・空間変異と、気候と食物利用可能性の季節変化についての定期的なモニタリング調査を継続して行うとともに、キナバタンガン下流生物サンクチュアリでも、野外調査によってブタオザルを主要な対象とする行動観察による調査を実施した。具体的な調査項目と現時点で明らかになった予備的な結果は以下のとおりである。1. 密度センサス:調査路近傍に自動撮影カメラを設置し、カメラ撮影頻度を密度の代理指標とした。一斉結実時に、ヒゲイノシシで撮影枚数や複数個体が写っている写真の割合が増加し、幼若個体は一斉結実時にのみ撮影された。2. 生物季節・気象の調査:調査路上の樹木の展葉・開花・結実フェノロジーと雨量、気温を記録した。3. 行動観察:キナバタンガン下流生物サンクチュアリに生息する7種の昼行性の霊長類のうち、ブタオザルを主要な対象とした。ブタオザルは広大な遊動域を持っており、一斉開花結実に対し、ほかの種にはない反応をすることが予測される。直接追跡、ボートからのセンサス、およびテレメトリシステムを利用した遊動の調査によって、ブタオザルが数平方キロメートルに及ぶ遊動域を持つこと、川辺を利用する頻度が、果実生産の季節性に影響を受けること、果実の多い場所に遊動する傾向があることが明らかになった。
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