研究概要 |
平成22年度はKaiCについて結晶化条件の最適化を行い,ATPase活性に関わるアミノ酸側鎖や水分子を含めた高分解能構造の解明に尽力した.その結果、エネルギーの蓄積を想像させるいくつかの構造歪みを見出した.これらアミノ酸の変異体についてATPase活性や時計機能への影響を検証し,標的としている構造歪みが本質的なものであるかどうかを早急に見極めたい. 構造歪みを溶液中で検出する方法として,X線小角散乱,赤外,蛍光の3つを導入した.X線小角散乱実験と並行して「多連セル」の開発を進め,より短い時間分解能で効率良く計測できるように準備を進めている.また,赤外についてはMCT検出器を導入し,微小な吸高度変化を捉えるための高感度計測システムの構築を進めている.蛍光については機器調整がほぼ完了しており,取得した高感度計測データを論文として発表することができた. 工夫を重ねた結果,KaiC 6量体の再構成過程を安定かつ高感度で計測することができるようになった.我々の作業仮説にほぼ合致する「リラックスしたKaiC」が過渡的に蓄積する証拠が得られつつある.これらの成果は,過渡的中間体におけるATPase活性と構造歪みの相関を検証するための基盤技術となるもので,大変意義深いと考えられる。 今年度に導入を予定していた温度ジャンプ装置であるが,プロトタイプ機の性能が不十分であったことに加え,業者の経営上の問題も重なり,実機の製作が半年ほど遅れていた.このような理由から平成22年度の研究費を平成23年度へ一部繰り越し,製作と機器調整を入念に行った.温度ジャンプが設計通りの時間分解能で達成されているかどうかを検証するため,温度指示薬を内部標準として繰り返し動作試験を行った.その結果,数十ミリ秒のうちに±約0.1度の精度で10→30℃への温度ジャンプが達成されており,試料を用いた実験に一定の目途がついた.
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