研究概要 |
当年度は,KaiCの計時機構を解明するための技術開発,結晶構造解析,分光学的計測,それぞれにおいて進捗が見られた. 温度ジャンプ装置は当初の計画よりも導入が遅れていたが,このたび実機がほぼ完成したため,その性能評価を含めた試験運用を行った.入念な機器調整の結果,予期していた温度ジャンプ幅が短時間内に達成されており,対象試料を用いた実験に目途がたった.野生型タンパク質を用いた予備的な実験結果によると,時計タンパク質は分以下のオーダーで構造変化しており,温度変化に呼応する時間スケールが当初の予測よりもかなり早い可能性がある. 6量体が再構成される過程の生化学的解析がほぼ終了し,当初の作業仮説とほぼ合致する「リラックスしたKaiC」が捕捉された.変異体を用いた解析も進捗しており,KaiCの分子内で起こる非凡な制御機構が明らかとされつつある. 結晶構造解析についても進捗があり,キーとなるタンパク質構造の歪みが確認された.それらの部位にアミノ酸置換を導入した変異体を複数調製しその生化学的データと構造生物学的データを照らし合わせつつ考察を進めている. 赤外吸収測定からも興味深い結果が得られつつある.複数の赤外吸収バンドが時間依存的に変化する様子が観察されており,ロットの異なる試料を異なる日に用いた複数の実験からもその再現性が支持されている.温度や溶媒条件を変えた実験も進めており,溶液中の構造変化を捉えた画期的な成果になるものと期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
温度ジャンプ装置の導入が当初の計画より半年近く遅れていたが,設計を入念に行った甲斐あって後の機器調整は順調に進んでいる.これにより,装置を用いた本格的な測定が平成24年度から可能となり,導入時の遅れをほぼ取り戻すことができた.そのほかの研究項目については,ほぼ計画通りに進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は,過渡的に蓄積する「リックスしたKaiC」の構造を各種分光法で検証する.温度ジャンプについては,温度や溶媒条件を変化させた実験に加え,変異体を用いた実験を計画している.平成23年度までに得られた成果をもとに,タンパク質構造と発振周期の相関について詳しく検証し,細部を詰めて成果をとりまとめる.
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