まず、新たに開発したカスパーゼ耐性ATPバイオセンサーを用い、アポトーシスにおける細胞内ATPの動態を計測した。その際に、ミトコンドリア膜電位あるいは細胞表面へのホスファチジルセリン(PS)の露出も同時に計測した。その結果、次に示す知見が得られた。 1)細胞質のATP濃度はアポトーシス誘導後もしばらく変化はない。しかし、ミトコンドリア膜電位が消失した後、急激に低下を始め、およそ1時間で枯渇する 2)一方で、ミトコンドリア内ATP濃度はミトコンドリア膜電位消失に伴って一旦上昇する。その後、細胞質ATPと同様、1時間程度で枯渇する。 3)PSの細胞表面への露出は多くの場合、ATPがほぼ枯渇した後に生じる。 以上の知見は、本研究によって初めて明らかにされたものである。2)の知見は予想外であったため、さらに詳細に調べた。その結果、平常時においてミトコンドリアATP濃度はミトコンドリア膜電位依存的に細胞質より低く保たれており、ミトコンドリア膜電位が消失すると細胞質との濃度勾配を形成できなくなるという知見が得られた。 続いて、アポトーシスイベントの可視化ツールの開発をおこなった。通常、PSの細胞表面への露出は、アネキシンVというタンパク質を用いて検出する。しかし、アネキシンVはPSのみならずホスファチジルエタノールアミンにも結合する、さらにカルシウムイオンに依存的であるという欠点があった。そこで、イオン非依存的にPSへ特異的に結合するタンパク質であるラクトアドヘリンと赤色蛍光タンパク質の融合タンパク質を作製した。この融合タンパク質を用いることで、イオン非依存的にPSの露出を可視化することに成功した。
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