前年度までの研究によって、アポトーシスした細胞においてはカスパーゼの活性化後に細胞外へATPが放出されることによって、細胞内のATP濃度が低下することが示唆されていた。本年度は、細胞外へのATP放出を担っているタンパク質分子Pの過剰発現や発現抑制、活性阻害を組み合わせることによって、細胞外へのATP放出がアポトーシスの際の細胞内ATP濃度低下の主要な要因であることを突き止めた。 次に、タンパク質分子Pの活性を人為的に調節して、アポトーシスにおける細胞内ATP濃度を調節することで、アポトーシスの進行に細胞内ATP濃度がどのように影響するかを調べた。まず、アポトーシス細胞の主要な表現形であるホスファチジルセリン(PS)の細胞表面への露出は、細胞内ATP濃度によってほとんど影響を受けない事が明らかになった。PSは通常、ATP依存的なトランスロカーゼのはたらきによって細胞膜の内層に局在しているが、この結果はPSの露出は、トランスロカーゼの不活性化ではないことを示している。一方、細胞膜のブレッビングは細胞内ATP濃度に大きく依存した。すなわち、細胞内ATP濃度の減少を早めた場合は、ブレッビングはほとんど起こらず、細胞内ATP濃度の減少を抑えた場合はブレッビングが継続した。また、ブレッビングを抑えた場合は核の断片化も抑制された。 本研究によって、タンパク質分子Pはアポトーシス細胞の細胞内ATP濃度を適切なタイミングとスピードで減少させ、ブレッビングと核の断片化を制御していることが示された。
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