研究課題/領域番号 |
22687012
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
矢島 潤一郎 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 准教授 (00453499)
|
キーワード | 分子モーター / 細胞骨格 / 3次元計測 / 分裂期キネシン |
研究概要 |
生命の基本現象である細胞分裂では、紡錘体と呼ばれる分裂装置が、細胞骨格やモータータンパク質などの相互作用を通して3次元空間に構築される。機能の異なる生体分子モーターが、この分裂装置に必須であることは知られているが、各種分子モーターの詳細な運動機構がわかっておらず、如何に協同して分裂装置を構築するのか、加えてリン酸化などの化学シグナルからどのような情報の伝達を受けているのかの詳細も解明されていない。本申請研究では、3次元空間で蛍光粒子の位置測定を行いながら力測定できる顕微鏡を構築し、分子モーターが微小管の長軸及び短軸方向に力をどれだけ出しているのかを定量し、微小管を直進させる運動機構のみならず、回転させる運動機構をも統合したかたちでモータータンパク質の運動メカニズムを理解する。平成23年度は、観察系に高速カメラを新たに導入し、高速でモーター分子の位置を測定するとともに、赤外レーザーの捕捉力をこれまでより高精度に見積もることができるように改良した。生体分子の分子機構に関しては、昨年度に分裂期特異的キネシン-6が、微小管の長軸に沿った方向に力を発するだけではなく、微小管の長軸に対して回転させトルクを発生するということを新たに見出したが、特定アミノ酸残基のリン酸化修飾でどのように制御されているのかを調べ、擬似リン酸化コンストラクトではトルクが大きく減少することが分かった。また、別の分裂期キネシン-14が、外部負荷を掛けるアミノ酸末端の違いで、トルク発生の有無を調整していることが分かった。さらに、キネシンとは別の微小管依存性分子モーターダイニンでは、ATP濃度や協同して働く分子の数に依存してトルクの程度が制御されていることが分かった。このように微小管依存性モータータンパク質は、化学・力学シグナル応じ、細胞周期依存的にトルクが制御されている可能性を示唆する結果を得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
試作した3次元計測顕微鏡システムに必須な三次位置較正法の開発過程において、計測対象物の3次元の位置の計測時に、原因不明のノイズが検出されることがわかり、計画を変更して装置の改善に取り組んだ結果、生体試料の定量化実験のための最適化が不十分であった。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題の遂行により、新たに分裂期キネシンやダイニンによりトルクを発生する性質を見出し、細胞周期依存的にトルクが制御されている可能性を示唆する結果を得た。モータータンパク質による微小管長軸に対して垂直方向への力発発生機構の分子メカニズムin vitro及びin vivoにおいて理解するため、以下について更なる改良・検討が必要である。計測システムについては、xyおよびz方向でのレーザーによる捕捉力を緩衝液中及び粘度の高い細胞質溶液中で正確に較正する方法を開発・改良していくことが必要である。生体資料の測定に関しては、微小管の両端のみを橋のように配置できる実験系を確立し、捕捉したモータータンパク質が結合しているビーズがチャンバー側面と接触せずに3次元方向へ出力する力を定量する必要がある。
|