siRNAやmicroRNAを含む小分子RNAは、単独で機能するわけではなく、Argonaute(Ago)タンパク質を核とするRISCと呼ばれるエフェクター複合体を形成することで、標的遺伝子の発現を抑制することが知られている。しかし、このエフェクター複合体形成過程において、最も重要な段階、すなわち、ATPを消費することで小分子RNAをAgoタンパク質に取り込ませる(=RISCに積み込む)因子は、大きな謎のまま残されていた。そこで、本研究では、既に樹立したago2;dicer-2のホモ二重欠失系統ハエ由来の胚抽出液あるいはショウジョウバエS2細胞の抽出液をカラムにより分画した後に、リコンビナントとして調整・精製したAgo2/Dicer-2/R2D2に加え戻すことで、RISC積み込み活性を触媒する因子を直接精製することを試みた。その結果、因子の単離には至らなかったものの、精製の過程においてHsc70、Hsp90およびそのコシャペロンが再現性良く観察され、Hsc70/Hsp90シャペロンマシナリーこそが「RISC積み込み因子」の本体であることが示唆された。そこで、Hsp70やHsp90の特異的阻害剤を用い、RISC形成に与える影響を解析したところ、ATP依存的なRISC積み込みにはシャペロンマシナリーの働きが必須であるのに対し、積み込みのあとの巻き戻し(小分子RNA二本鎖が一本鎖化する過程)には、ATPもシャペロンマシナリーも必要ではないということが明らかになった。また、この現象は、ショウジョウバエとヒトにおける、siRNA経路とmiRNA経路の両方において保存された普遍的なものであることも明らかとなった。
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