研究概要 |
異なった二種のゲノムが一つになった時に起こる相互作用を明らかにすることが本研究の目的である。異種ゲノム間の相互作用を遺伝子発現のレベルで明らかにするために,モデル生物であるシロイヌナズナの近縁種,Arabidopsis halleriとA. lyrataを材料にして,次世代シークエンサーを用いたトランスクリプトーム解析を行う.これらの二種には自然に発生したと考えられる異質倍数体,A.kamchaticaとその亜種A.k.ssp.kawasakianaが存在することが知られており,日本を含む北半球地域に生息することが知られている.これらの異質倍数体と親種の遺伝子発現様式をゲノムレベルで比較することにより,遺伝子発現の可塑性とそれに働く自然選択を明らかにする.本年度は次世代シークエンサーを利用したトランスクリプトーム解析および親種A.halleri ssp gemmiferaのゲノム配列解析を中心に研究を行った.トランスクリプトーム配列の7割以上はA. lyrataのゲノム配列上にマップされ,種特異的な塩基置換を同定することができたが,より詳細な解析を行うには,親種A. halleriのゲノム配列が必要である.A. halleriのゲノム配列の整列の結果,十分な被覆率のゲノムデータが得られたが,反復配列などの要因により,ゲノム配列はかなりの部分断片化されていた.これを克服し,より詳細なゲノム配列データを得るために,来年度以降は長距離メイトペアライブラリによるゲノム配列の整列を行う予定である.また,実験に並行して,異種間ゲノムの相互作用についての進化モデルの発展と検証を行った.特に核ゲノムにコードされている遺伝子とミトコンドリアにコードされている遺伝子の進化的相互作用について,「弱有害補完毎デル」を提唱し,霊長類の遺伝子配列よりモデルの妥当性を示した.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により,詳細で正確な親ゲノム配列の決定が,アリル特異的な遺伝子発現パターンの推定に非常に重要であることが分かった.今後は,より詳細な親種のゲノム配列の決定と遺伝子発現パターンによる注釈付けを行い,それをもとにして高精度な雑種の遺伝子発現解析を行うことにする.
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