研究概要 |
20代の男子大学生10名を被験者とし,嗅覚刺激実験を実施した。刺激は樹木のにおい成分であるα-ピネン,リモネンとし,対照は無臭の空気とした。測定指標は収縮期血圧,拡張期血圧,平均動脈圧(MAP),心拍数,心拍出量(CO),総末梢抵抗(TPR),1回拍出量とした。被験者には椅座位にて5分以上安静を取らせ,その後20分間の嗅覚刺激を行った。また嗅覚刺激の間はパソコン上にて計測器監視を模した作業に従事させた。MAPならびにMAPに影響を与えるCOとTPRについて解析を実施した。 各個人についてMAP,CO,TPRの10秒ごとの平均値を算出し時系列変化を観察したところ,同じ刺激であっても(1)COが上昇しTPRが低下するタイプ,(2)TPRが上昇しCOが低下するタイプ,(3)どちらともいえないタイプの3タイプが確認された。(1),(2)はそれぞれ既往研究においてcardiac pattern, vascular patternとされているもので,本研究で実施した実験においてこれらのパターンが認められたことは,実験デザインの妥当性を示唆するものであると考えられる。一方(3)については,既往研究で見出されているmixed patternとみなすことができるかどうかはさらに詳細な検討が必要である。 MAPとCO,MAPとTPRの相関係数をそれぞれ求めたところ,ほとんどのケースでMAPとCOは有意な負の相関を示し,MAPとTPRは有意な正の相関を示したが,中にMAPとCOの相関関係が認められないケースがあった。この被験者では3種の刺激のうち2種で相関関係が認められず,反応パターンにある程度の再現性がある可能性があると考えられる。次年度においてさらにデータの蓄積を行い,より多くの被験者にて,再現性を含めて各種パターンの存在を確認する予定である。
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