魚類の性行動や内分泌パターンには、顕著な性差が認められる。しかし、これらの性差が、どのような脳内メカニズムによって生じるのかについては、全く明らかとなっていない。私はこれまで、メダカの脳内で発現に性差を示す遺伝子の網羅的スクリーニングを行い、脳でオス・メス特異的に発現する遺伝子群を単離・同定してきた。本研究では、それらの遺伝子群の中でも、著しい性差を示し、脳機能の性差形成に重要な役割を担っていることが予想される数種類の遺伝子に焦点を当て、その機能、作用機序、制御機構を明らかにすることを試みている。それにより、脳の性差が、どのような分子メカニズム、神経メカニズムによって形作られるのかを理解することを目指す。今年度は、焦点を当てた数種類の遺伝子の発現パターン、および、その発現細胞の投射様式や活動電位を、全脳の形態を保ったままモニタリングすることを可能とするためのモデルとして、それらの発現を蛍光タンパク質で可視化したトランスジェニックメダカを作出し、そのライン化に取り組んだ。そして、蛍光タンパク質の蛍光を指標に、着目した遺伝子を発現するニューロンの細胞体、および軸索走行をイメージングする実験系の確立を試みた。また、着目した遺伝子の1つであるcyp19a1bは、これまで魚類の脳ではラディアルグリア細胞で発現するとされてきたが、昨年度に行ったcyp19a1bの発現解析により、その説は正しくないことが示唆された。そこで本年度は、cyp19a1bの発現細胞を正確に同定し、cyp19a1bが、メス特異的な細胞ライフサイクルを司っている可能性を検証した。また、着目した遺伝子と共発現することが考えられるいくつかの神経ペプチドやモノアミン合成酵素の発現およびその性差を解析した。
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