近年、海洋を舞台としたウイルス学の著しい進歩が注目されている。本研究では、DNA/RNA両タイプのウイルスの共通宿主に対する感染・複製・優占化戦略を、珪藻とそれに感染する2種のウイルス(DNA/RNAウイルス)を材料として比較・解明することを目的とした。 珪藻とウイルスの挙動に関し、有明海におけるキートセロス・デビリスとそれに感染するウイルスとの関係を調査した。その結果、ウイルスは本種の発生時に特異的に増加すること、ならびにウイルス個体群と宿主個体群はともに複数の異なる感染性・被感染性を持つ株から構成されていることが推察された。また、広島湾においてキートセロス・テヌイシマスに感染するウイルスは夏季に出現頻度が高くなることが明らかになった。 キートセロス・テヌイシマスに感染するRNAウイルスならびにDNAウイルスをターゲットとし、それぞれのウイルスゲノム塩基配列特異的な分子プローブの設計を行った。ターゲット配列をプラスミドに組み込んだ後、約1kb長のハイブリダイゼーション用分子プローブの作製に成功した。 有明海底泥ならびに広島湾海水からキートセロス・テヌイシマス計26株を分離し、25℃条件下におけるそれらのDNA/RNAウイルスに対する感受性試験を実施した。その結果、株により両ウイルスに対する感受性にバリエーションが存在することが明らかになった。 珪藻キートセロスsp.に感染する新奇ウイルスSS08-C03Vを分離することに成功した。本ウイルスは粒径32nmの1本鎖RNAウイルスで、複製粒子は宿主細胞質内に蓄積されていた。主要構成タンパク質の組成は既知の珪藻RNAウイルスとは異なっていた。引き続き解析を実施することで、珪藻RNAウイルスに関して共通する新たな知見が集積されると思われる。
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