研究課題
本研究課題では、気候変動に伴ってカタクチイワシとマイワシの間で優占魚種が入れ替わる「魚種交替」現象の生物学的メカニズムを明らかにするため、産卵場解析を中心に研究を進め、異なる海洋生態系間比較を介してのシナリオ提示を目指す。今年度は各項目についてほぼ計画通り進捗させた。1. 「産卵特性に対する産卵場環境の歴史的変遷と魚種交替機構」産卵場環境の歴史的変遷を調べるデータセットを作成するために、直近のデータ更新と共に、和歌山以西海域を中心に1977年以前の産卵調査の紙媒体資料を発掘・整理し、電子化作業を進めた。2. 「主産卵場形成機構」両魚種の重複産卵期である2~3月の産卵調査を担当・実施し、主産卵場である土佐湾周辺海域のカタクチイワシ、マイワシ等小型浮魚類の卵・仔魚採集と環境要因データ取得を密に行った。産卵場と環境要因の関係の解析を進めた。3. 「物理・生物環境に対する産卵特性の海洋生態系間比較」黒潮海流域とフンボルト海流域の比較を進めるため、ペルー海洋研究所と共同研究覚書を正式に交換し、ワークショップを介して共同解析に着手した。産卵特性の比較に関する試行解析を行った。4. 「その他」産卵場から輸送される過程での生残を議論するために、魚類の初期生活史における成長-生残研究に関する知見を統合し、総説論文を作成するため、昨年度に続きワークショップを行い、過去文献の知見を整理した統合表を完成させ、総説論文の執筆を進めた。
2: おおむね順調に進展している
当初計画のうち、データ電子化と産卵調査によるデータ蓄積はほぼ計画通りに進んだ。海洋生態系間比較は、昨年度より、全海域ではなく黒潮海流域とフンボルト海流域の比較に絞っており、共同研究覚書の交換によって次年度に向けて大きな進捗が期待できる体制となった。新たに計画した魚類の初期生活史における成長-生残研究の知見を統合するワークショップでは総説論文の他、論文公表バイアスに関するエッセイ論文の出版が計画されており、順調である。
本課題は当初計画では基本的には産卵場解析のみを想定していたが、産卵場から輸送される過程での生残を議論するために、昨年度より、魚類の初期生活史における成長–生残研究の知見を統合することを立案し、共同研究ワークショップを開催してきている。このワークショップが成功してきているため、最終年度には総説論文等の成果が期待できる。また、4つの異なる海洋生態系を等しく進めていく予定であったが、魚種交替の最近の傾向等を考慮し、フンボルト海流域との比較を重点的に進めるものとしており、最終年度もこの方針を継続して、産卵場以外の動物プランクトンや資源情報の比較も試みる予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (16件) (うち招待講演 3件) 図書 (1件) 備考 (1件)
Fisheries Oceanography
巻: 21 ページ: 44-57
10.1111/j.1365-2419.2011.00608.x
http://cse.fra.affrc.go.jp/takasuka