研究概要 |
本研究の目的は,東南アジアにおける近年の国内外畜産物流通構造の変化と,それに伴う食品リスクへの影響について整理することにある。経済発展に伴う畜産物需要の高まりが見られる東南アジアにおいて,家畜や畜産物の国境を越えた移動にもダイナミックな変化が見られる。バンコクOIE事務所に本部をおくSEACFMD(東南アジア・中国口蹄疫キャンペーン)やベトナムの屠畜業者(牛流通業者)および家畜衛生局へのヒアリング,既往文献やSEACFMD関連プロジェクトの成果報告書によれば,本研究で対象としている牛の流通についてみると,90年代中頃には比較的発展段階の高いタイやマレーシアへ向けた移動が主流であったが,近年は西方(ミャンマー以西)からベトナムや中国など沿岸地域へ向けた移動が活発化している。フエ市のある屠畜業者は,2006年に仕入れ先をラオスへ,2008年にはタイへと広域化を進めていた。背景には,牛肉への需要の高まり,内外価格差と家畜のサイズの違いがある。1頭の屠畜に係る手間は大きく変わらず,また販売時に畜種の違いを示す手段も確立されていないことから,屠畜業者にとって枝肉重量の大きい外来種の方が利益は大きくなる。食品リスクの指標として取り上げた病原性大腸菌の検出については,6月にフエ及びハノイの屠畜場で計10頭,9月に53頭の検体(糞および枝肉表面拭取)を採取し,O157の分離を試みたが見つけられなかった。一方で,stxl遺伝子は約50%の糞と10%以上の枝肉表面から,stx2遺伝子も数検体から分離された。
|