研究概要 |
本研究の目的は,東アジア・東南アジアにおける近年の国内外畜産物流通構造の変化と,それに伴う畜産・食品リスクへの影響について整理することである。経済発展に伴う畜産物需要の高まりがみられる東アジア・東南アジアにおいて,家畜や畜産物の国境を越えた移動にもダイナミックな変化が見られる。 平成23年度は,ベトナムとカンボジアおよびラオス国境における家畜の移動や検疫について,現地調査に基づく情報収集を行なった。また,フエ市内のと畜場で牛152頭(3業者)の糞便及び枝肉から病原性大腸菌の分離を試みた。Stx1遺伝子とStx2遺伝子は,いずれも約30%の牛の糞から検出され,その出現率はベトナム原産の黄牛と西方(タイなど)から輸入されるブラーマン種の間に差はみられないものの,比較的大型の家畜を扱う業者で汚染率が高かった。一方,枝肉の汚染率はStx1が6.6%,Stx2が5.3%であった。同地域では,2-3月にかけて,フエ市民(300名)を対象に,食肉衛生とリスク認知,食習慣等に関するアンケート調査を対面で実施した。 また,2010年に日本国内および韓国で問題化した口蹄疫について,アジアでの対策をフォローする研究の一環として,台湾における口蹄疫対策について97年の大規模発生以降の畜産政策と家畜衛生政策について整理するとともに,養豚農家100名を対象にアンケート調査を実施し,現在の口蹄疫対策(強制的ワクチン接種と,サーベイランスの実施,ワクチンへの補助,ワクチン接種証明書の発行によるワクチン接種の担保等)の効率性について複数の政策オプションについて対策費のシミュレーションを行った。その結果,ワクチン接種時期を早めるための啓蒙キャンペーンの有効性を示唆する結果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
屠畜場での糞便・枝肉からのO157(あるいは他のEHEC)分離については,引き続き行う。屠場での糞便から枝肉への汚染は限定的であると考えられ,小売店にサンプリングを広げても,汚染率は低いと考えられる。したがって,別の屠場を含め,屠場でのサンプリングと菌の分離を引き続き行い,小売レベルへの拡張は,屠場での菌の分離後に着手する。H23年度に実施したアンケート調査は,食肉流通業者と獣医師や研究者など専門家の調査を拡充する。
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