一般的に成熟精子は細胞質に乏しいユニークな形態であるが、これは精子形成の最終段階(精子完成あるいは変態と呼ばれる過程)で、余分な細胞質を脱ぎ捨てるためである。本研究では、細胞質で起こる大規模な分解系であるオートファジーが精子細胞質の除去に果たす生理学的意義を明らかにすることを目的とした。平成21年度では、オートファジーモニターマウス(GFP-LC3マウス)を使った精子形成過程におけるオートファジーの誘導状況の観察と精子細胞特異的オートファジー欠損マウスの作出と繁殖性についての検討を行った。まず、GFP-LC3マウスを使った解析から、当初の予想通り精子完成過程でオートファジーが誘導されることが明らかとなった。減数分裂期の精子細胞ではオートファジー誘導は観察されなかったことから、精子完成過程において特異的な機能を持つ可能性が示唆された。次に、この時期に誘導されるオートファジーを欠損させる目的で、精子細胞特異的にオートファジーを欠損するコンディショナルノックアウトマウスを作出した。このノックアウトマウスでは、精子形成の初期からオートファジーが抑制されるにも関わらず、精子形成そのものへの影響は観察されなかった。そこで、このノックアウトマウスと野生型のメスマウスを同居させて繁殖性を検討したところ、15週齢頃から不妊傾向を示すことが明らかとなった。精巣切片を用いた解析から、ノックアウトマウス由来の精細管には多数の異常構造体が観察されたことから、オートファジー欠損下における異常構造体の蓄積と不妊には何らかの関連が示唆される。一般的に、精子が脱ぎ捨てた細胞質はセルトリ細胞による貪食によって消化されることが知られているが、この過程においてオートファジーの新たな生理機能の関与が想定され、今後さらなる研究によって明らかにしたいと考えている。
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